H5N1型という“敵”に日本が採るべき策

1997年に稼いだ時間は使い果たされつつある

――ここまでお話をお聞きして、「さまざまなレベルでの対策がうまくかみ合わないと、新型インフルエンザ対策はうまくいかない」という印象を強く受けました。

岡田:そうです。感染拡大という問題にしても、各企業が事前に「いかに通勤しないで在宅で仕事をするか」という準備をしておかないと、各家庭にこもっても、働きに出ている家族がウイルスを家に持ち帰ってしまうことになります。逆に、企業が在宅ワークを進めても、各家庭の籠城準備が不十分だと、買い物に出て感染してしまう可能性があるでしょう。

 国、地方自治体、医師会と病院、企業、学校、各家庭などの対策がすべて出そろい、うまくかみ合って、初めて効率的に新型インフルエンザを迎え撃つ体制が動き出すのです。どこが欠けてもいけません。欠けたところから破綻が始まります。

 香港で、最初の鳥インフルエンザの感染が起きた1997年、わたしは科学技術庁の職員で感染症研究所に出向していました。たまたま、書類を届ける用事があって、田代部長の部屋に入ったそのタイミングで、香港から感染発生を知らせる電話が入ったのです。

 電話口に出た田代部長が、ぶるぶるとふるえていたのをはっきりと覚えています。電話に向かって田代部長は、「鶏をすべて殺すしかない」と言っていました。当時、鳥インフルエンザは鳥に特有の病気で、ヒトには感染しないと考えられていました。まして、強毒型の特性を獲得して高い致死率を示すようになるとは、誰も思ってもいませんでした。想像すらできなかった恐ろしい感染症が、突然目の前に現れたのです。

 香港の防疫責任者だったマーガレット・チャンは、香港で飼っていたすべての鶏を殺処分するという大英断を下し、感染拡大を防ぎました。この決断がなければ、1997年の時点で新型インフルエンザが世界を席巻していたかも知れません。

 マーガレット・チャンのおかげで、世界は新型インフルエンザに備える時間的な猶予を得ました。しかし、ウイルス研究の現場にいて、鳥インフルエンザの拡大を見ていると、新型インフルエンザ発生までの時間は残り少ないと肌で感じられます。

 日本の対策は、米国などに比べれば3年から4年は遅れています。もはや一刻の猶予もなりません。

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