H5N1型という“敵”に日本が採るべき策

 SAFETY JAPAN ではこれまで、新型インフルエンザに関する本を何冊か紹介してきたが、今回、その多くの本を著してきた岡田晴恵氏に直接、インタビューを試みた。
 国立感染症研究所研究員である岡田氏は、新型インフルエンザに関する最新の、詳細な専門情報に触れてきたことで、H5N1型という“敵”の恐ろしさを実感するとともに、人間が採るべき対策を模索し続けている。今、日本で、まず採るべき対策は、一刻も早く、計画的なプレパンデミックワクチンの備蓄に着手することだ、というのが同氏の主張だ。

聞き手・文/松浦 晋也
2008年5月16日

 岡田氏はインタビューの席でわたしの前ではなく、斜め前の席に座った。

岡田:なぜわたしがここに座ったか分かりますか。

――いえ、なぜでしょうか。

岡田:あなたの目の前に、新型インフルエンザを発症したわたしが座ったとします。すると、あなたはほぼ確実に感染します。それが、この斜めの位置だと感染の確率は7割ぐらいまで低下します。

 これが、例えば同じ部屋の端と端ぐらいになると、感染確率は1割程度まで下がります。この意味は分かりますか。

――感染の確率は距離だけで決まる、ということでしょうか。

岡田:そうです。もちろんどちらを向いて咳をするかというようなことも関係しますが、社会全体で見ると単純に人と人との物理的な距離が感染の確率を決めるのです。つまり、新型インフルエンザの世界的流行(パンデミック)の時に、感染を最も拡大するのは、人と人との距離がぎりぎりまで短くなる環境、つまり‥‥

――通勤電車ですね。

岡田:そうです。パンデミック時の通勤電車は、感染拡大の温床となります。感染症研究所では、コンピューターによる数値シミュレーションによる感染拡大の研究も行っていますが、通勤電車の運行が通常通りだった場合、パンデミック発生から2週間後には東京圏に居住する人口の66.4%が、新型インフルエンザに感染するという結果が出ています。

――2週間で6割以上というのは、あまりに早いのでは。

岡田:新型インフルエンザには誰も免疫を持っていないということが、このような急速な感染拡大を起こす理由です。

――すると、通勤電車を止めないと大変なことになる。

岡田 晴恵氏 ●岡田 晴恵氏

岡田:電車の運行を完全に止めるのは、社会機能を維持するためにも難しいです。それでも、事前に運転本数を間引くパンデミック時の運行計画を策定しておき、速やか移行する体制を整えておく必要があるでしょう。その時が来て、行政手続きが手間取っていると、手遅れになってしまいます。

 通勤電車の管轄は厚生労働省ではありませんよね。国土交通省です。交通を遮断するとなると警察も関係してくるでしょう。経済行為を止めるわけですから、経済産業省も関係します。

なぜ、わたしがこんな話をしたかお分かりでしょう。新型インフルエンザ対策は、保健衛生や医療だけではなくすべての官庁、すべての行政組織が一致して準備をしておき、実施する必要があるということを言いたいのです。縦割り行政への固執は、国民の生命を損ないます。新型インフルエンザ対策は、内閣総理大臣の指揮下、国から地方自治体、企業、個人に至るまでの日本の国全体で行うべきものなのです。また、そうでなければ効果が薄れてしまうものなのです。

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