新型インフルエンザの“リアル”を語ろう

発生から1週間で世界中に広がる

――強毒型のH5N1ウイルスへの対策が問題になっているにもかかわらず、日本の厚生労働省は、弱毒型のスペインインフルエンザをモデルケースにした対策を立てています。これは取り組みが甘いのではないでしょうか。

田代:厚生労働省は、感染率25%、致死率2%で対策を立てています。全人口の25%が感染し、感染者のうち2%が死亡するという意味です。

 スペインインフルエンザの感染率は48%でしたから、対策の前提となる被害見積もりはスペインインフルエンザよりも甘いです。

 この数字は米国のCDC(疾病予防管理センター)が、1968年の香港インフルエンザの時のデータに基づいて作成した数式で算出されています。この数字を算出した時は「仮に」というモデルケースとして出したのですが、報告書では「仮に」が取れて数字が一人歩きしてしまいました。

 ちなみに、この数式はソフトウエア化されているのですが、米国では既にそのソフトウエアは使われていません。

 米国では新型インフルエンザが起きた場合の対策を2006年に改訂しているのですが、その中で台風と同じ1から5までの「カテゴリー」というスケールで被害規模を表しています。香港インフルエンザがカテゴリー2、スペインインフルエンザはカテゴリー5の一番下に分類しています。つまりスペインインフルエンザを最悪のケースとは考えていないということです。

――NHKの番組では米国の取り組みが進んでいるとして紹介されていましたが、米国ではどの程度の被害を想定して対策を立てているのでしょうか。

田代:米国の保健省が昨年大手メディア向けに行ったカンファレンスでは、感染率20〜40%、致死率20%ということでした。

 オーストラリアのシンクタンクであるロウイー研究所が出した推定では米国では死者200万人が出るとしています。日本は人口密度が高くて米国よりも条件が悪いので死者210万人です。しかし、ロウイーの推計はスペインインフルエンザのような弱毒型ウイルスに対してのものです。

 H5N1のような強毒型ウイルスがパンデミックを起こした場合、どの程度の被害が発生するのかについて、きちんとした推計はまだ出ていません。

 実際にはどの程度の被害を想定すべきなのか。そこで米国が想定している致死率20%を採用し、感染率を中間の30%として、日本の人口1億2800万人を掛けてみてください。米国の見積もりを採用すると、なんの対策もなしにパンデミックが起きると日本では768万人が死亡するという数字が出てきます。感染率を25%としても、600万人以上の死者が出るということになります。

――第二次世界大戦の2倍以上の死者が出るということになりますね。

田代:スペインインフルエンザの時と同じく、全く無防備のままで強毒型のH5N1ウイルスによるパンデミックを迎えると、こういう事態が起きるということです。これは社会崩壊を意味すると考えていいでしょう。

 しかも現在は交通機関が発達しています。米国のカンサス州で最初の流行を起こしたスペインインフルエンザがオーストラリアに上陸するのに1年かかりました。現在はこんな時間的猶予はないでしょう。ひとたびパンデミックが発生したら1週間程度で全世界に広がると考えておかなくてはなりません。

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