新型インフルエンザの“リアル”を語ろう

強毒型ウイルスが毎年流行する可能性も

――未来のいつか、それも遠くない将来に強毒型のH5N1ウイルスがヒトへの感染性を獲得するのは、もう間違いないことなのでしょうか。

田代:専門家の間では、ヒトに感染する新型ウイルスの出現は、「Ifの問題ではなくWhenの問題」、つまり「ほんとうに起きるかどうか」は既に問題ではなく「いつ起きるのか」が問題だということで認識が一致しています。

 インフルエンザウイルスは、ある時新型ウイルスが出てパンデミックを起こすと、それ以前に流行していたウイルスが消えていってしまうという奇妙な性質を持っています。どうしてそんなことが起きるのかはまだ分かっていません。

 1918年のスペインインフルエンザはH1N1型でした。H1N1ウイルスはその後ずっと小流行を引き起こしていましたが、1957年にH2N2のアジアインフルエンザが出現すると、H1N1のウイルスはどこかに消えてしまいました。1968年にH3N2の香港インフルエンザが出現すると、H2N2のウイルスが消えました。

 ところが1977年にH1N1のソ連インフルエンザが出現します。ソ連インフルエンザのウイルスは、さまざまな証拠からどこかの研究機関で保管されていたウイルスが漏れ出したと考えられています。このときはH3N2のウイルスは消えませんでした。その理由も分かってはいません。現在はH3N2とH1N1のウイルスが共存しています。この状況が次のパンデミックの後にどのような影響を与えるかも不明です。

 これまでと同じことが起きると仮定しましょう。すると次のパンデミックが来ると、これまでのウイルスは消えていきます。

 次にパンデミックを起こすウイルス候補は、強毒型のH5N1ウイルスのほかに、H9N2というウイルスがあります。こちらも鳥の世界では広範囲に広がっていますが、弱毒型です。ヒト型に変異するとしても、大きな健康被害は出さないでしょう。

――H5N1とH9N2とでは、どちらがヒト型に変異する可能性が高いのでしょうか。

田代:可能性としては同じぐらいです。ですから次はH9N2が来るから大したことにならないという人もいます。

 しかし、もしも強毒型のH5N1ウイルスがヒト型に変異した場合、健康被害はH9N2と比べると比較にならないほどひどいものになるでしょう。社会活動の崩壊が起こり得ると考えなくてはなりません。

 最悪の事態に備えるのが危機管理の定石です。パンデミックが起きてからでは遅いのです。起きる前に、最悪のシナリオに基づいて対策を立て、可能な限りの準備を進めておくべきなのです。

 「まず、強毒型のH5N1ウイルスへの対策が最優先事項」。これは世界的なコンセンサスです。

――今、ウイルスがパンデミック毎に代替わりするというお話でしたが、ということはもしもH5N1ウイルスがヒト型に変異してパンデミックを起こした場合、その後毎年H5N1ウイルスの亜種が冬になるたびに流行を起こすようになるということでしょうか。つまり、高い致死率を示す強毒型のインフルエンザが毎年流行するようになってしまうのでしょうか。

田代:その可能性は否定できません。ですからパンデミック対策では、いったんパンデミックが起きてしまった後の世界において、どのような防疫を恒久的に進めるかということも視野に入れておかなくてはなりません。それは社会の仕組みを組み替えるような一大事業になるでしょう。

 強毒型のH5N1ウイルスがヒト型に変異するということは、人類史に大きな影響を与える一大事なのです。

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