新型インフルエンザの“リアル”を語ろう

鳥の世界は既にパンデミック状態

――H5N1ウイルスについては、現在どの程度のことが分かっているのでしょうか。

田代:香港の事件の後、研究が進んでヒトでパンデミックを起こしたインフルエンザのウイルスは、すべてトリ由来だということが判明しました。まずトリの間でパンデミックが発生します。その中からヒトにも感染する突然変異が起きて、ヒトのパンデミックを起こすというのが、パンデミックの発生機序だったのです。

 弱毒型のウイルスではトリは死にませんから、野鳥の世界でパンデミックが起きていても分かりません。H5N1の場合、トリも死にますから、野鳥でパンデミックが起きていることが分かるわけです。

――トリの世界では、強毒型の高病原性鳥インフルエンザが既にパンデミック状態になっているということですか。

田代:そうです。鳥の世界では、今現在パンデミックが現実に進行しているのです。

 1997年の香港では、鳥の間でパンデミックになるのを食い止めたと思われました。しかし、2003年春に日本と韓国で、中国から輸入した冷凍鴨肉からウイルスが検出されました。

 中国当局は「そんな事実は確認されていない」としていますが、おそらくは中国のどこかでオリジナルのウイルスが流行を起こしていたのではないかと推定されます。鴨は、強毒型のH5N1ウイルスに感染しても症状が出ませんから。

 2004年に入ると山口県と京都府で、鶏舎の鶏が大量死したことでウイルスの侵入が確認されました。同時期に韓国でも鶏の大量死が起きています。これらのウイルスは2003年に中国産鴨肉から検出されたものと同じでした。

 その後ベトナム、カンボジア、タイでも流行が起こりました。これらのウイルスは、韓国で流行したものと少し違う。現在インドネシアで流行しているウイルスも、これらとはちょっと違います。

――違うというのはどういうことでしょう。H5N1ウイルスにも種類があるということでしょうか。

田代:そういうことです。鳥の世界での流行は2003年後半から始まっています。インフルエンザウイルスは非常に突然変異を起こしやすいので、H5N1ウイルスは現在までに10系統の少しずつ異なる亜種に分化しています。

 ウイルスの亜種のことを専門用語で“クレード”といいます。今、一番広がっているのは「クレード2-2」という亜種です。2005年に中国・青海省で野鳥の大量死を起こしたウイルスで、既に欧州やアフリカにまで広がっています。2003年後半からインドシナ半島で流行したウイルスは「クレード1」というものでした。一時期流行は下火になっていたのですが、今年に入ってから再燃の気配が出てきています。

 1997年に香港でヒトヘの感染を引き起こしたのは「クレード3」でした。2006年には中国・安徽省で新しい亜種の「クレード2-3」が確認されています。これは既に香港や北部ベトナム、ミャンマーなどに広がっています。

 今や、色々な亜種のH5N1の鳥インフルエンザウイルスが世界のあちこちで複雑に流行しているのです。

――それらの亜種はすべて強毒型なのでしょうか。

田代:どの亜種も、ウイルスの毒性はウルトラ病原性と言い得るものです。過去知られた野鳥のウイルスの中で最も強い毒性を示しています。

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