新型インフルエンザの“リアル”を語ろう

 鳥インフルエンザの危険性について、SAFETY JAPANではこれまで書評を通じて警鐘を鳴らしてきた。新型インフルエンザの脅威は、ようやく知られるようになったが、まだまだ正しい情報が一般に届いているとは言えない状況だ。特にこの問題を専門としている研究者の生の声はなかなか表に出てこない。

 田代眞人氏は、日本を代表するインフルエンザの研究者であるとともに、世界保健機構(WHO)で新型インフルエンザ対策を担当するインフルエンザ協力センターのセンター長を務めている。今回のインタビューはWHOに勤務する田代氏が帰国するタイミングで、貴重な時間を割いていただき行ったものだ。

 田代氏は、新型インフルエンザが、全身感染を起こす、これまでにない高い病原性を示すものになるであろうと指摘する。このままでは被害は第二次世界大戦以上になる可能性もある。「不作為は、犯罪ですらある」と、国を挙げての対策推進を訴える。

聞き手・文/松浦 晋也、写真/北山 宏一
2008年3月28日

――高病原性鳥インフルエンザについては、今年1月に放映されたNHKの番組(NHKスペシャル「シリーズ最強ウイルス」1月12、13日放映)などでやっと一般にも認知されるようになってきましたが、その実態についてはまだまだ情報の周知が徹底していないようです。まず、「そもそも鳥インフルエンザとはなにか」から説明をお願いできますか。

田代 眞人氏

田代 眞人氏

田代:わたしは約20年前から鳥インフルエンザの研究をしてきました。鳥インフルエンザウイルスは、トリを宿主とするウイルスで、基本的にトリの腸管で増殖します。ウイルスに感染したトリにはあまり激しい症状は出ません。わたしが研究を始めたころは、鳥インフルエンザは鳥に特有の病気で、ヒトに感染することはないと思われていました。

 ところが1997年に香港で18人が鳥インフルエンザに感染し、うち6人が死亡するという事件が起きました。この時は香港の防疫担当者だったマーガレット・チャン現世界保健機構(WHO)事務局長が、香港で飼育されていた鶏130万匹を殺処分するという大英断を下して、感染拡大を食い止めました。

 この時のウイルスが、現在問題になっている強毒型のH5N1ウイルスでした。強毒型ウイルスによる世界的大流行、すなわちパンデミックが現実味を帯びてきたのです。

――強毒型の高病原性鳥インフルエンザウイルスというのは、自然界には存在しなかったのでしょうか。

田代:過去、自然界に存在した鳥インフルエンザウイルスはすべて弱毒型で野鳥を殺しませんでした。今回の強毒型ウイルスは野鳥も殺します。それだけではなく、ほとんどのほ乳類に感染して死に至らしめます。当然、ヒトも例外ではありません。

――その強毒型、弱毒型というのは具体的にどういうことなのでしょう。

田代:従来のインフルエンザウイルスはトリ型もヒト型も弱毒型です。トリの場合は感染してもほとんど症状が出ませんし、ヒトでは気道の粘膜細胞など一部の細胞でしか増殖しません。ウイルスは細胞に入り込んで増殖し、最後に細胞を破壊して出てきます。ですからウイルスに冒された部位では細胞が破壊されて炎症が起きます。弱毒型の場合は、気管しか炎症を起こさないわけです。

 一方強毒型は、全身の細胞で増殖する能力を持ちます。ですからさまざまな臓器で炎症が起きて多臓器不全を起こしますし、血流にウイルスが入り全身に回るウイルス血症という症状も出ます。特に重症の肺炎を起こすため、治療には人工呼吸器が欠かせません。

 これとは別にH5N1ウイルスはサイトカインストームという症状も起こします。免疫は通常、ウイルスから身体を防御するのですが、その免疫が暴走して、自分の体を攻撃してしまうのです。免疫活性が低い老人よりも、活性の高い若者のほうが危険なのです。

――全身に感染する強い毒性と、サイトカインストームを起こす性質が、高い死亡率につながるわけですね。

田代:人に感染した場合の症状は、既に我々が過去の経験で知っているインフルエンザではありません。いままで人類が経験したことがない強力な感染症です。

 普通のインフルエンザは上気道にしか感染しませんし、健康な若い人が死亡することはほとんどありません。65歳以上の高齢者や、妊婦、糖尿病や腎臓病などの慢性疾患の患者といったハイリスク群が合併症を起こして死ぬ危険性がある程度です。

 ところが今回のH5N1ウイルスは、致死率が非常に高いのが特徴です。気道のみならず、肺の深いところに感染し、ウイルスによる肺炎を引き起こします。細菌による合併症の肺炎ではなく、ウイルスが肺炎を起こすのです。妊婦が感染した場合には、ウイルスが胎盤を通過して胎児に感染した例も報告されています。このようなことは通常のインフルエンザではありえません。

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