日本の情報収集活動はどこが抜けているのか(第3回)
~日本の「失われた10年」を招いた通信傍受網「エシュロン」~

軍事ジャーナリスト 鍛冶 俊樹 氏


日本の情報活動の脆弱さに警鐘を鳴らす、軍事ジャーナリスト鍛冶俊樹氏。インタビューの最終回は、通信傍受がテーマである。
『エシュロンと情報戦争』(文春新書)の著書がある鍛冶氏は、アメリカを中心とした国際的な通信傍受網「エシュロン」が、1990年代の日本の競争力低下を招いたと語る。
そして、現在は中国による情報活動が活発化している。日本の富を守り、安全を守るためにも、日本人はいま一度、情報の大切さをかみしめる必要があるだろう。

聞き手・文/二村 高史

2006年5月8日

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通信傍受についての方法も対策も立ち遅れている

――情報収集活動の一端として、通信傍受はどの程度のレベルで行なわれているのでしょうか。

軍事ジャーナリスト
鍛冶俊樹氏

鍛冶:
 程度の差こそあれ、どこの国でも通信傍受は行なわれていますが、なかでも日本は非常に遅れているといっていいでしょう。

 通信傍受法という法律があることはあるのですが、あくまでも組織犯罪や麻薬捜査を対象にしたものであって、裁判所に届け出て令状を取らなくてはなりません。実際に適用されているのは、年に数えるほどしかありません。

 ところが、中国、ロシアはもちろん、アメリカでも安全保障上の通信傍受は、ほぼ無制限にできます。

 アメリカの場合はNSA(アメリカ国家安全保障局)という通信傍受を担当する専門機関がありますが、日本にはそれに該当する部門はなく、公安調査庁でも通信傍受はできません。犯罪捜査における通信傍受は警察が行なうのですが、警察と情報機関とが本質的に違うものだということは前に述べたとおりです。

――アメリカは「エシュロン」という世界的な通信傍受網を持っており、それが世界支配を支える大きな力になっているということを、先生の著書で拝見しましたが……。

鍛冶:
 エシュロンというのは、アメリカが中心となって全世界にはりめぐらした通信傍受網のことで、電話、電子メール、ファクスなど、さまざまな通信メディアの盗聴、傍受を行なっています。

 エシュロンには、ほかにイギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドというアングロサクソン諸国が加盟しており、お互いが傍受した情報を交換できるようなシステムになっています。

 もともとは軍事情報を対象にしていたのですが、冷戦後は民間の情報にも手を出すようになってきたのです。

 なにしろ、通信傍受を担当してきたNSA、CIAにとっては、脅威が存在しないことには予算を削られてしまいます。そこで、ソ連崩壊後は日本の経済が脅威であると声高に言い立てるようになったわけです。

 とくに、1980年代後半は日米の貿易摩擦がピークを迎え、日米包括協議が行なわれていたころです。

 そこでCIAとNSAは何をしたかというと、通信傍受によって得られた情報を利用し、日本の経済的脅威を消滅させようとしたのです。

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