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『ネットは新聞を殺すのか?』&『新聞のなくなる日』(その1)
日露戦争で確立した新聞のビジネスモデル
――なぜ、新聞というビジネスモデルがダメになってしまったのでしょうか。

東京財団特別研究員、元毎日新聞社取締役編集局長
歌川令三氏
歌川:
実は日本の新聞のビジネスモデルというのはとても古いんですよ。日本で近代的新聞経営が確立したのが日露戦争のときです。1904~05年ですからちょうど100年経っている。どんなビジネスモデルだって100年経てば古くなります。
どのように新聞のビジネスモデルができたかといえば、当時は無線電信はあったものの、電話もラジオもない。情報を手に入れる手段は何より新聞だったのです。当時の新聞はとても値段が高くて、1ヶ月の購読料でだいたいいまの30キロ分ぐらいのお米が買えた。およそ 1万~1万5000円くらいでしょうか。
そんな高いにもかかわらず、日清戦争から日露戦争にいたる10年間に新聞の部数は5倍の163万部に膨れあがりました。みんな戦況を知りたかったのですね。こうしてできあがった新聞のビジネスモデルには6つの特徴があり、現在も基本的に変わっていません。
第1に部数が増えて戸別配達網が確立した。世界で戸別配達制度を持っているには日本と韓国だけです。韓国はかつて日本の植民地だったので、その習慣が残っている。実は新聞社は顧客の名簿を持っていません。名簿はすべて販売店が握っているのです。もともと新聞社は各地の特定郵便局に新聞の卸売を頼みました。特定郵便局長は地方の有力者ですから都合がよかったんでしょう。そこから販売店に発展したため、新聞社は各販売店と個別契約を結んでいるのです。
第2に月極読者獲得のための販売合戦が激化しました。昔の新聞の記録を読むと、朝日新聞と毎日新聞の販売店員が大げんかして警察に捕まったなどというニュースが出てきます。こうして拡張のためには何でもありの企業文化ができあがっていきます。
第3に手動の平板印刷機に代わり、輪転機が導入されました。第4に明治から多色刷りのカラー印刷も始まっているのです。第5に広告が軌道に乗り、収入の4割ほどを広告でまかなうようになりました。1901年には電通の前身である「日本広告」が誕生しています。
そして第6に新聞の販売促進策として美人コンクール、遠泳大会、四国八十八箇所の巡礼競争、全国中学テニス大会などが始まっています。
部数が減ると宅配システムが維持できない
歌川:
このように明治時代にはほとんどビジネスモデルが完成してしまうんですね。これが100年間長持ちしたのです。しかし、さすがにこの長寿モデルもガタがきた。
どこがダメになったかというと、まず新聞部数が飽和状態に達して、これから減っていくということです。2004年で35歳以上の月極購読率は1世帯当たりおよそ1.2部です。世界でこれほど新聞を読んでいる国はありません。アメリカはいま0.7部ぐらいです。
しかし、若い人は新聞を読まなくなっている。学生なら新聞の購読者は2~3割しかおりません。彼らは紙でなく、インターネットの電子媒体でニュースを見ているんですね。ネットがあるから新聞はいらないという若い人が増えています。4年に1度ずつ、新聞協会は調査をしているのですが、じりじりと購読率は下がっており、2012年には1世帯当たり0.8部になると推計されています。
実はいろいろな水増し部数を差っ引いた日本の新聞の本当の実力は1.0部程度なんです。これが0.6部や0.7部に落ちると、販売網を維持できなくなります。
現在、販売店は全国で2万1000店舗もあります。寺院の7万、コンビニの4万5000にはおよばないが、郵便局と小学校の2万3000とはほぼ肩を並べています。これほどきめ細かな販売網による宅配システムを作ったからこそ、ここまで部数が伸びたわけです。
だが、その一方でこれだけのシステムを維持するには膨大な経費がかかっている。下の図をご覧になるとわかりますが、新聞社が宅配から上げている年間販売収入は約1兆7500億円。ここから販売店に配達料6500億円と拡張補助金として1500億円が戻される。つまり、8000億円が店の取り分であり、新聞社は9500億円を得る。実に売上げの4割以上が新聞の出前費用に使われているのです。日本の新聞が世界一高いというのも、その経費が上乗せされているからです。

「新聞社と販売店の関係図」
部数が落ちるとこのようにカネをかけたビジネスモデルは壊れるしかない。そのぐらいのことは経営をあまり考えない新聞社の社長でもよく知っていますが、それじゃ電子媒体に移行するかといえば、それはできないジレンマに陥っているのです。
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