中国の大気汚染が日本を襲う?!(前編)
中国では大気汚染によって年間40万人が命を落としている――そんなショッキングなニュースが流れたのは昨年初冬のことだ。この数字は中国の全人口の0.4%に当たり、日本における自動車乗車中の自動車事故死亡率とほぼ同率である。しかし、これを対岸の火事と看過することはできない。大気汚染は当該国および隣接国のみならず、地球規模で影響が現れることが最近の研究で明らかになっているのだ。今回は深刻化する大気汚染の問題について東京大学先端科学技術研究センター地球大気環境科学分野近藤研究室の近藤豊教授と、竹川暢之助教授に話を聞いた。

聞き手・文/林愛子、写真/渡徳博
2006年1月18日



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植生に大きく影響するオゾンが日本でも増加

――中国の大気汚染が高い関心を集めていますが、どのような状況ですか。

近藤 豊教授 東京大学先端科学技術研究センター
近藤 豊教授

近藤:
 年率8%超の経済成長を続ける中国では、大量のエネルギーを必要としていますが、エネルギー源のほとんどは石油や石炭といった化石燃料に依存しています。それらを燃焼すると、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)、炭化水素(CO)、微粒子(エアロゾル)といった大気汚染物質が発生します。そのなかでも私たちが注目しているのは、窒素酸化物や炭化水素の光化学反応で生成するオゾン(O3)と、微粒子です。

図1:大気汚染の構図
資料提供:近藤研究室(東京大学先端科学技術研究センター )

 オゾンは植物の成長を阻害したり、森林を枯れさせたり、農作物の収量が落ちたりといった問題を引き起こします。また、酸化力が強いため、人間の呼吸器にも悪影響を及ぼします。

 日本では、気象庁や環境庁の観測結果から、過去10年間ほどで大気中のオゾンが約2割増えていることが分かっています。原因として、中国や韓国など東アジアの産業活動で発生した窒素酸化物からオゾンが生成され日本に流れてきたとする見方がありますが、定量的な評価は十分にはなされておらず、はっきりと分かっていないというのが現状です。

――東アジアから日本へ流れてくる可能性が議論されているのは、なぜですか。

近藤:
 私たちは宇宙航空研究開発機構(JAXA)やアメリカ航空宇宙局(NASA)、アメリカ海洋大気庁(NOAA)と共同で研究を進めています。2004年には「中国の大気汚染がどう運ばれていくのか」「太平洋をどう渡るのか」さらに「アメリカにはどんな影響があると予測されるか」といったことを定量的に調査するために、太平洋の西と東で飛行観測を行いました。このイメージ図(図2)を見ると、大気が北半球全体を巡っていることがよく分かります。

図2
資料提供:近藤研究室(東京大学先端科学技術研究センター)

 飛行観測では、オゾンの原因物質の有無などを調査しましたが、最近では数値シミュレーションが非常に発達しています。現実の世界では気象や化学反応などによりその濃度が大きく変わるので、それらを加味したモデルをベースにすれば、「どの程度の汚染レベルだと、どこで、どんな影響が出るのか」といったことを、かなりの精度でシミュレーションできます。

 図3と図4 は日本上空付近の大気の流れを矢印で示し、オゾンの分布を赤~紫色で表現したものです。1月(図3)は日本上空付近に強いシベリア高気圧が張り出し、強い北風が吹くため、中国上空の大気は風にのって太平洋の南側へと運ばれます。

図3
資料提供:近藤研究室(東京大学先端科学技術研究センター)

 一方、4月(図4)は南からの高気圧にブロックされて風が弱まります。オゾン濃度が濃い赤色のエリアは、1月は大陸の一部にしかありませんが、4月になると日本はすっぽりと覆われ、大陸でもかなりの広範囲に及びます。つまり、春から夏にかけて、日本あるいはアジア全域が中国の大気汚染の影響を受けやすいのです。他の物質も同様に季節変化があると考えられています。

図4
資料提供:近藤研究室(東京大学先端科学技術研究センター)

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