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退職金を狙った金利1.7%の罠
今年四月、詐欺罪に問われた三人の元団体役員が被告の論告求刑公判が、静岡地裁沼津支部で開かれた。いずれも、二〇〇三年四月に約一六〇億円の負債を抱えて破産した旧静岡商工資金協同組合(以下静岡協組)の経営陣で、元理事長の大村虎男、元専務理事の山下正人、元理事の杉山正志の三被告。
破たんが明らかになった後も、経営状態が健全であるかのように装って新規借り入れを続けたとして詐欺罪に問われた。検察側は「信頼を逆手に取り、顧客から金員をだまし取った悪質な犯行」として、大村被告と山下被告に懲役三年、杉山被告に懲役二年を求刑した。
弁護側は、大村、山下両被告について「積極的な犯意があったわけではなく、私利私欲のためではなかった」として執行猶予付きの判決を、杉山被告については「金をだまし取るという意思は全くなかった」として無罪か執行猶予付きの判決を求めた。
伊豆半島の中央部、伊豆長岡温泉に程近い静岡県伊豆の国市の自宅で、狩野力さん(七三歳)は公判の行方を静かに見守っていた。狩野さんは、静岡協組にお金を貸し付けていた債権者でつくる「被害者の会」の代表を務めている。
同会は今年一月、この三人の被告を含む当時の経営陣など一五人を相手取り、約二億八五〇〇万円の損害賠償を求める訴えを地裁沼津支部に起こしている。その第一回の公判は六月の予定だ。
「これで終わりではない。経営に携わっていた理事全員の責任を追及していく。我々にとっては、これからが正念場」。狩野さんは厳しい顔で決意を新たにした。
狩野さんの貸付額は一〇〇万円ほど。「ほかの被害者と比べれば微々たるもの」というが、決して簡単にあきらめのつく金額ではない。奥さんの親戚が静岡協組の職員だったことから、二〇年ほど前から貸し付け、満期を迎えるたびに書き換えを繰り返してきたという。
「金融機関ではない静岡協組にお金を預ける(貸し付ける)ことに私は以前から反対していたが、特に地方では、血縁関係は絶大な影響力を持っている。親戚の熱心な勧誘に、妻が断りきれなかった」
破たん当初はその成り行きを静かに見守っていた狩野さんだったが、伊豆長岡町の町議会議員を三期務めた経験と人脈、指導力を買われ、被害者の仲間から「被害者の会」の代表に推挙された。
会員数は約三〇〇人。その大半が六〇歳以上の高齢者で、被害額の平均は五〇〇万円にも及ぶ。その中には、老後の生活資金だった虎の子の退職金全額を含む数千万円を貸し付けていた人もいる。
〇三年一〇月には、中間配当として債権額の二・五パーセントが返済された。とはいえ、たとえ裁判に勝ったとしても、被害者の貸付金が全額戻ってくることはない。狩野さんの無念の表情は、一瞬にして大切な老後資金が泡と消えた人たちのやり切れない想いを代弁していた。
静岡商工資金組合の「借入金証書」(右)と「出資證券」(左)。破綻直前の年利は1.2%だった。
粉飾決算、子会社への過剰融資……
ずさんな経営実態が明らかに
静岡協組は一九五〇(昭和二五)年に設立された三島商工資金協組が前身。沼津市に本部を置き、三島、修善寺、伊豆長岡などに七つの支店を持っていた。
静岡県東部を営業区域として、組合に出資した中小企業経営者などから借り入れた資金を、別の組合員に融資する金融(貸金)事業を営んでいた。
破たんの直接の引き金となったのは、一九八七年に伊東市のレジャー施設への数十億円の投資が焦げ付き、債権放棄したことだったが、破たん後の調べで、それまでのずさんな経営の実態が次々に明らかになっていった。
その一つが粉飾決算。静岡協組は静岡県に毎年度、決算関係書類の提出を義務付けられていたが、経営陣は赤字隠しのために毎年これらを粉飾していた。経営危機を認識しながらこうした事実を隠ぺいし、赤字を膨らませていった。
さらに、不動産業や石けん製造業、ホテル業などの関連子会社四社に総額一〇〇億円以上をつぎ込み、三〇億円以上の損失を出していたことや最高議決機関である総代会を数十年にわたって開いていなかった事実も判明した。
現場の営業担当者も、「経営陣の指示を受け、詐欺まがいのやり方で借入金を集めていた」(狩野さん)。静岡協組は規約上、商工業者の出資者以外からはお金を借り入れることはできなかった。にもかかわらず、不特定多数の人から幅広く集めていた。狩野さんは「担当者がポケットマネーで一口一〇〇〇円の出資金を負担し、お客の承諾を取らずに、勝手に出資者に仕立てていたケースもあった」と打ち明ける。
詐欺まがいの行為はそれだけではなかった。営業担当者は借り入れの仕組みをきちんと説明するどころか、「金利の良い預金」という誤解を与えかねない表現を使って勧誘活動を行っていた。
「銀行と同じような会社です」「ウチは絶対つぶれませんから、安心してお金を預けて下さい」「たとえ倒産しても、預かったお金は責任を持って戻します」││。これらは、「被害者の会」が会員から集めた、営業担当者が勧誘の際に使っていたセールス文句だ。また、数千万円の退職金を貸し付けていた六〇代の被害者の女性はこう証言する。「『預金』という表現を度々使っていたので、銀行にお金を預けている感覚だった。証書を持ってきたときも、そこに明記された『借入金』という言葉に対する説明は全くなかった」
「被害者の会」が集めた被害者の人たちの無念の声。数千万円の退職金を貸し付けていた人もいる
高利回りをうたって組合員以外からも資金集め
「高利回り」も、被害者が続出した理由の一つだ。静岡協組の破たん直前の一年貸し付けの年利は一・二パーセント。
狩野さんによると、その数年前には、一・七~二・二パーセントという高さだったという。金融機関の定期預金金利が一パーセントを下回る超低金利時代に、多くの人がこの高利回りに大きな魅力を感じたのも無理はないことだった。老後資金をできるだけ有利に運用したい高齢者なら、なおさらのことだ。
利息は約束どおり支払われていたので、高利回りをうたっていたこと自体は詐欺行為ではない。だが、ここ数年は「満期になって解約を希望する契約者に対し、いろいろと理由を付けてそれを拒み、強引に契約を更新させていた」(狩野さん)という。
さらには、四〇年近くも営業してきた中で生まれた地域との密接なつながりや職員との血縁関係││。こうした要因が絡み合って、被害者が続出してしまった。
静岡協組を巡る詐欺事件は、決して他人事ではない。狩野さんも「後半生に、こうしたトラブルに見舞われる可能性は誰にでもある。この事件の真相を一人でも多くの人に知ってもらいたい」と訴える。静岡協組と相前後して、同種の事業を営んでいた四日市商工共済協同組合(三重県)や佐賀商工共済協同組合(佐賀県)が相次いで破たんし、同じような問題が起きている。こうした被害者が二度と出ないように、指導監督する立場にある行政にも、きちんとした対応策が望まれる。
この連載のバックナンバー
- <後半生のリスクマネジメント>悪徳商法、詐欺から身を守る (2005/08/01)
- <食のブランド調査>頼される食のブランド 品質起点の生産革新、キユーピーが1位に (2005/07/01)


