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医療社会学からみたリスク

誰にとってのリスク? “居眠り狩り”にならないために

 日本では、日中過眠や睡眠の問題が、睡眠障害すなわち本人の自覚症状や心脳卒中などの余病を併発するリスクとしてではなく、居眠り事故すなわち他者に危害を与えるかもしれないリスクとして問題化したために、睡眠医学の臨床や運送業務の現場に混乱やゆがみが現れている。

 通常の医療は、自分の健康リスク管理のために本人の意思で受診するサービスであるはずのものだ。ところがSASA対策の場合には、職場での半強制的な命令で受診し、しかもその結果によっては失職するかもしれないという「対策」では、病人の治療ではなく「交通事故加害者予備軍」の取り締まりのようなものだ。

 他者への危険というリスクを重視する取り締まりになってしまえば、自分への社会的不利益を避けるために、受診する人々も日中過眠という症状を隠すようになってしまいかねない。そうなれば、適切な診療を受けないことによって、本人の健康リスクが悪化することはもちろん、社会的・経済的損失のリスクも改善されないままになる。

 睡眠医療の現場に携わる医療者たちは、睡眠医療の充実が手薄なままに閉塞性SASと居眠り事故との関連だけが問題化されてしまうことに危惧を感じているという。

 また、居眠りや日中過眠は、SASなどの病気だけがそれらを引き起こすリスクとなっているわけではない。24時間休みなしに活動を続ける現代社会を成り立たせるために必要な交替制勤務もまた、日中の眠気を引き起こす。過剰な長時間労働や職場までの長い通勤時間も病気以外の原因として重要だ。

 これらは、睡眠衛生とか睡眠にかかわる健康問題ではあるが、病院や専門クリニックを受診しても解決できる問題ではない。

 日中過眠の問題を大きく取り上げたタイム誌のカバー記事「うとうとするアメリカ」(1990年12月号)の結論は次のようになっていた。

 「ウェイクアップ、アメリカ、もっとよく眠ることによって」

 もっとよく眠ることを可能としてくれるうえで有効なのは、より多くの医療だろうか? それとも過労を生み出す社会を変化させ、労働者保護の公的規制を適正化することだろうか?

 人生の3分の1の時間を占める睡眠にかかわるリスクを、医療や健康だけの問題としてとらえるか、もっと広い社会的文脈のなかで考えるのか、ということを問い直してみることが必要だ。

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