第18回
抗うつ薬は何に効く?
神経内科医・医療社会学者 美馬 達哉氏
2006年9月19日
流行病としての「うつ(鬱)」
5人に1人は、人生のうちに1度はうつ(鬱)状態を経験するといわれる。また、日本国内のある調査では、15人に1人がうつ病になったことがあるともいう。
近頃、「うつ」「うつ状態」「うつ病」などの言葉を日常会話で耳にしたり、マスメディアで目にしたりする機会が多くなっているようだ。タレントや俳優が、自分のうつ体験(とその回復)についてオープンに語ったりすることも増えてきているし、テレビのコマーシャルでもうつ状態になった場合には、専門医に受診して治療を受けるようにと薦める啓発広告も見かけるようになった。
うつ状態の“核”となる意味は、抑うつ的な気分だ。つまり、気持ちが滅入ったり、落ち込んだり、ときには罪責感をもったり、ということを指している。
それ以外にも行動という面では、だるくて何をやる気も起きなかったり、仕事に行かなくなって引きこもりのようになったりする。食べ物の味が分からなくなって食欲が落ちたり、眠りが浅くなったりする(特に朝早く目が覚める)ことも多く、頭痛やめまいのように様々な身体の不調を起こすこともある。
また、気分が落ち込むだけではなく、ときには周囲の人に対して攻撃的になったり、死んでしまいたくなったりする場合もある。ガンや脳卒中や心臓病とは違って、精神障害はそれ自体で生命にかかわることはあまりないが、うつと関連した自殺はその例外だ。入院が必要なほどのうつ状態になった人のうち、7人に1人は結局のところ自殺をしてしまうという悲しい調査結果まである。
日本でうつが社会問題化している背景には、長期不況と構造改革に伴う自殺急増が影を落としている。
日本での自殺者数は、1980年代後半から安定して2万数千人で推移してきたが、1998年に急増し、以来8年間にわたって年間3万人を超える状態が続いている。今年の6月15日には「自殺対策基本法」までも成立したことは記憶に新しいだろう。
自殺の原因には様々あるが、その一部はうつなどの精神障害であり(調査によって率は異なるが30%程度といわれる)、自殺対策の1つとしても、行政も含めたうつ対策は重視されている。
2002年の厚生労働省の調査では、うつを含む気分障害での患者数は全国で71万人とされる。ただ、精神科ではなく、身体の不調や不眠を訴えてかかりつけ医にかかっている場合なども含めれば数百万人と推定されている。1984年の調査では10万人以下だったことを考えれば、「大流行」といってもよい急増だ。
また、20世紀前半でのドイツの精神科医クルト・シュナイダーによれば、「抑うつ性精神病」はまれな病気であって、その病名での入院者は2万人に1人程度だったのとも大きな違いである。
この連載のバックナンバー
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