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医療社会学からみたリスク

第10回
新薬と偽薬はどちらが有効?

神経内科医・医療社会学者 美馬 達哉氏
2006年5月23日

効くクスリとは何か?

 病気になった。クスリをのんだら症状が治まった。だから、そのクスリは有効だ。

 ある病気にどんなクスリが有効かを判断するための手続きとしては、こうした議論の運びは、一見するだけなら自然な流れに思える。クスリが効いてめでたし、めでたしというわけだ。

 しかし、よく考えると、ここでは、クスリをのんだことと治癒したことの2つの出来事の間に時間的な前後関係があったというだけであって、クスリの有効性という因果関係の証明にはなっていない。だから、臨床の現場では使われがちなこんな考え方は、「使った。治った。効いた。」の非科学的な、いわゆる“3た療法”として、クスリの専門的な研究者たちからは数十年前から批判されてきたのである。

 つまり、こうした推論方法は日常生活では問題を引き起こすことは多くないだろうが、クスリが効くかどうかを客観的・科学的に知る方法として不向きなのだ。

 “3た療法”へのもっとも単純な反論としては、クスリをのまなかったり、あるいはクスリだと思って別の何かをのんでいたりしても治るような病気だったのかもしれないという疑問がわくだろう。もし、そうならば、症状が消えたという効果はクスリに対する期待感の産物であって、クスリ自体の客観的な効果とはいえないことになってしまうからだ。

 治った本人にとっては、クスリが効いたのかどうかがはっきりしなくても、症状が軽くなったので構わないのだろうが、そんな誤解のために不必要な新薬が認可されたりすれば、医療費の無駄になることはもちろん、思わぬ薬害を引き起こしかねない。だから、今日では、新薬となるクスリの効果の判定には、比較の対照となる別のクスリや「偽薬」と比べて有効かどうかというテストを行うことが必要だと決められている。

 今回は、偽薬そのもののもつリスクと、新薬と偽薬を比較するというテストの倫理的リスクについて考えてみることにしよう。

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