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医療社会学からみたリスク

第9回
儀礼としての「てい毛」

神経内科医・医療社会学者 美馬 達哉氏
2006年5月9日

手術前の処置

 外科での手術の前には、脳外科の手術であれば頭の毛を、腹部外科や産科婦人科で下腹部の手術であれば下の毛を、カミソリなどで剃るという“風習”がある(あるいは、あった)。「てい毛」(漢字だと「剃毛」と書く)という処置である。

 手術前の患者さんたちはたいてい、あまりうれしくないと感じながらも、手術中に傷口に毛が混入して細菌感染したために術後の治りが悪くなっては困るからだという医療者の説明を聞いて、耐えてきたわけだ。

 だが、このてい毛の感染予防の効果について、科学的な客観的評価をしたところ、無意味どころか有害だという結果がでていることを皆さんはご存じだろうか。術後の傷口の細菌感染リスクが、てい毛によって除毛しない場合の10倍近くに増大するというのだ。

 てい毛に関するこの医学的事実は、今から四半世紀以上前の1971年には既に解明されていた。だが、てい毛が不要(というよりも有害)だということが、医療者たちに受け入れられるようになったのは、世界的にみても1990年代以降のようだ。日本では今でも、てい毛を手術前に行っている病院が数多くある。

 今回は、前回の連載での心肺蘇生術に続いて、文化人類学でいう「儀礼」という視点から、てい毛という無意味な医学処置がなぜ行われているのかについて考えてみよう。

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