「どうしてくれる!?」クレーム担当者の奮闘日記

第8回
「アレルギーで子供が倒れた」
生死に関わる食物アレルギーへの対応ミス

このコラムでは、架空の外食企業のクレーム対応担当者の日常を通して、最善のクレーム対応を考えていきます。

文/水野 孝彦(日経レストラン)、イラスト/蛭子 能収
2006年6月26日

○月×日 午後
カレーを食べてお子様が倒れた!

 「子供がおたくの店でカレーを食べて倒れた。うちの息子が死んだらどうするんだ!」――。

 この数日、私は重大なクレームへの善後策に追われていた。うちの料理を食べて店を出たお子様が倒れ、入院したというのだ。

 原因は食物アレルギー。皮膚が腫れたり、じんましん、せき、下痢などを引き起こす。さらにアナフィラキシー・ショックと呼ばれる状態になると、呼吸困難や不整脈などが生じ、最悪の場合、ショック死の可能性もあるという。

 このお子様にもアナフィラキシー・ショックが生じ、病院に運ばれた時には意識が朦朧とした状態だったという。幸い命に別状はなかったが、これまで経験したことのないタイプのクレームに私は驚いた。

 しかし、子供のアレルギーは親が知っているはず。なぜアレルギー反応が生じる料理を食べたのか?

 原因究明のため、店長とお客様の両方から詳しく話を聞いて、店側の凡ミスが思わぬ事態を招いたことが分かった。子供の小麦アレルギーに悩むお客様は注文時に「この店のカレーは、小麦を使っていますか?」と質問した。ところが応対したスタッフは、一般的にカレーに小麦が使われていることを知らず、自分の思い込みで、「小麦は使っていません」と答えてしまったのだ。

 従業員の知識不足は致命的だったが、最大の問題は確認作業を怠ったことだ。当チェーンでは、アレルギーに悩むお客様からの問い合わせに備え、アレルギーを引き起こす可能性がある25品目の食材について、どのメニューで使われているかが分かる一覧表を作成し、店舗に置いている。このリストで確認さえしてくれていれば、誤った情報をお客様に伝えずに済んだはずだ。

 食品衛生法で加工食品については、アレルギー物質の表示が義務付けられている。飲食店に表示義務はないが、消費者の関心が高まることや社会的な責任を考えて一覧表を作った。しかし、使ってくれなければ意味がない。食物アレルギーは、幼少期に多く見られ、乳児で10%、成人でも1~2%の人が悩んでいると言われている。その中にはきっと、当チェーンのお客様もたくさんいる。再発防止策は実効性のあるものにしなければならない。

○月×日 夕方
進む大手のアレルギー対策

 飲食店にはアレルギー表示が義務付けられていない。だから私は、今回の事件まで、食物アレルギーで悩むお客様は飲食店の利用自体を控える傾向にあるはずだと思っていた。

 だが、再発防止策を考えるため情報収集を進めるうちに、大手外食チェーンでは食物アレルギーへの対策がかなり進み、お客様の心理にも変化が生じていることに気が付いた。

 例えば、大手外食チェーンの多くは、自社のホームページ上で、各メニューに使われている、アレルギーが生じる可能性のある食材の一覧表を載せている。またそばアレルギーの人にとっては、そばと同じ鍋でゆでたうどんも危険だ。微量でもアレルギー物質が残っているリスクがあるためで、調理の過程で混入する可能性がある食材まで表記し、注意を喚起しているところもある。

 さらに、少なくとも2つの大手外食チェーンが、アレルギーを引き起こす可能性が特に高い「卵」「小麦」「乳」「落花生」「そば」の5つを使わない低アレルギー・メニューを用意している。

 今回、ご迷惑をかけたお客様も「最近はアレルギー対策が進んでいる店も増えているから、この店も大丈夫だろうと思った」とおっしゃっていた。

 店側から見るとアレルギーへの対策は、余裕のある大手だからできることだと感じる。しかし、お客様にとっては、大手も中小も関係ないと痛感した。

 
 

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