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現実主義に目覚めよ、日本!

第19回
行革の推進力はなぜ強くなる一方なのか
~「赤字の力」から「道徳の風」を経て「小さな政府」へ~

東京財団前会長 日下 公人氏
2006年2月23日

うま味がなくなって優秀な官僚ほど逃げていく

 大蔵省(現・財務省)では、人事課長のことを「秘書課長」という。昔は彼らをどんなにこき使っても、みんな死にものぐるいで朝まで働いてくれた。ところがこの頃は、天下りのうま味もないし、民間の接待もない。だからもう嫌になって帰ってしまう。これは問題だということになっている。

 でも彼らが省内の職員に、例えば「君、外資系からお誘いがあるけど、このあたりでひとつ、辞めて行ってみるかね」というと、もっと偉くなろうと思っている人は断るわけだ。「秘書課長」というのも大事な仕事。20人採用しても最後は1人だけいればいいのだから、途中で19人を辞めさせなければいけないのだから。

 大蔵省としてはあまり期待していない人に、「君、外資系の誘いがあったけど行くか」というと、だいたい1回目はみんな断るらしい。2回目に「どうかね」とやって、かつてはそれが一巡して誰も行く人がいないという状態だった。つまりその頃、大蔵省にはまだ魅力があった。仕方がないからその次に、多少有望だけど下から数えて何番目かの人に「君、このあたりで……」といった。それでもみんな粘った。

 それで結局、本来ならもうちょっと上まで引っ張り上げたいと思う人に「どうかね」と言ったら「はい、行きます」というわけだ。そのレベルの人は賢いから、ちゃんと将来が見えているのだ。つまり、「こんなところに残ってもしようがない」と、外資系に行ってしまう。結局、レベルが上の人ほど、どんどんいなくなってしまう。だから大蔵省としては、中途半端なレベルの人が残って、本当に有望な人がバンバン出ていってしまう。

 つまり、役所には「うま味」がなくなったわけだ。その「うま味」をなくしているのは、改革なのだ。それでもまだ、抵抗する人はしている。今がんばるべきはこのことなのだ。小泉首相は「今からがんばる」といっている。実際、国会はもう自民党が抑えたから、法案さえ出せば全部通ってしまう。頭数でいえば、全部通るわけだ。

 そうなると、実は法案をつくる人がいないということが問題になる。役所はなるべく新しい法案をつくりたくない。小泉首相は9月に辞めるといっているのだから、9月まで改革を引き延ばせばいいんだと役人は思っている。それでも、役所にも新しい改革案をつくる良心的な人もいる。しかし体制としては、改革はなるべくやりたくない。しかも現実は、小泉さんが辞めた後を見計らって、「おれはやっぱり役所の世話になって、利権を回してもらって当選しなければいけないんだ」というような政治家がまだポチポチいるわけだ。

 国民はもっと適切にこの問題に対応していかないといけない。つまり、闇雲に役人をやっつけて意地悪ばかりしていてもダメで、立派な役人はほめなければいけない。結果が出たときにはほめるべきはほめて、ダメな部分はダメと、国民がいわなければいけないのだ。

 
 

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