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現実主義に目覚めよ、日本!

第16回
行き過ぎた個人主義が揺り戻す共同体精神

東京財団前会長 日下 公人氏
2006年2月2日

退屈な理想主義者たち

 日本人には、理想主義は必ず勝つと思っている人が多い。日本人はなぜ理想が高いのか、僕は不思議に思う。とにかく現実を恥ずかしいと思っていて、理屈がかったことをいっていれば間違いがない……。こんな人が多いのだ。やっていることはまた別なのだが、言うこととやることが違うから、まあまあのバランスがとれて、実際にはそんなにひどくはならない。このように理想と現実の間に、適当なあたりを見つけるのを「按配」という。「按配」は非常に便利な日本語だ。

 学者とつき合っていると、彼らは「最適着地点」あるいは「自然均衡点」の話をする。適正値、理論値、自然利子率などといって、それは自分が見つけたとか、その決定要因はこれだとか……。聞いているとつまらないのだが、それを聞くと何か整理されたような気持ちになる。

 「これは1つの整理にすぎない。ここから出発して味付けしなさい」という教授も10人に1人くらいはいるが、他の教授はたいてい「この通りに書かないと試験で落とすぞ」と、子ども相手に威張っている。そこで日本の学生は賢いから授業に行かない。適当にうまく書いて、卒業すれば、あとは会社でちゃんとやる。それで日本経済は世界最高に成功した。今でも成功している。

 そういう現実を見ると、理論家や理想家は、いまいましいことにいつも現実の欠点ばかりを指摘する。「外国のほうが立派だ、日本はまだダメだ」と必ず教訓をたれるのだ。そういう愚かな人ばかりが集まっているのが学界とマスコミ界だ。

 外国と比べると、日本人は理想家ぶる。理想家ぶるのは、たぶん学歴が高いせいだと思う。かつて学問がわりと役に立ったのは、日本が中進国だったからだ。外国の真似をして幸せになって、さてそれから上に突き抜けようと思っているのが今の状況だが、それは大学では教えてくれない。立派な教授なら「あとは自分でやれ」と学生たちに言うわけだ。

 日本は中進国を脱して、今やトップに出てしまったわけで、モノでもサービスでも、日本がつくるものはもう世界のトップなのだ。だから到底、大学では教えられないし、外国にもそのモデルはない。

 だからそれぞれ工夫し、努力しなければならない。でもその出発点は日本社会にあるのだ。日本社会が一番進んでいるのだから、日本社会を味わっていると何かひらめくことがあって、それをやると、まず日本で売れる。日本人は金持ちだから、高くても売れる。開発費を償却し終わった頃、アメリカ人と中国人の金持ちが買いに来る。日本は儲かるし、向こうは開発費を負担せずに買えるから、どちらもうれしい。それが今の国際関係だ。

 
 

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