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現実主義に目覚めよ、日本!

第15回
社会主義的な貯蓄思想では、働く喜びも生きる喜びも生まれない

東京財団前会長 日下 公人氏
2006年1月26日

「子どもを社会で保育する」思想が少子化につながった

 トーマス・モアが理想としたものの第一は、私有財産の否定だった。自分の財産があるから欲が出て、ケンカが絶えない。それならみんなで共有の財産を持てばよかろう、というわけだ。それがイスラエルの集団共同生活農業につながった。

 あるいは中国もそうだ。農地を共同化して、食事は同じところで食べよう、ということだ。さらにはレーニンの社会主義では、「子どもは社会が育てる。親が育てると、我が子かわいさで相続財産づくりに励むからよくない」と、生まれたときから保育園に入れてしまうなど、私有財産の否定はどんどん進んだ。

 これを「よいことだ」と信じて、今もやっている国は、僕は日本だけだと思う。学校では給食を出し、保育園を充実させるのはよいことだと、日本では考えられている。こうして親から子どもを奪ってしまうのだが、そうすると日本の親は大喜びで出してしまう。

 これが例えばドイツでは、全然違う状況だそうだ。出産をすると「給料を3年間与えるから会社には来るな、家にいなさい」と言われるのだ。子どもは3年間はまだ知性も理性も何もない動物みたいなものだから、母親が食べさせなければダメである。そうすることで初めて親子の愛情が生まれ、情感が豊かになる。勉強はその後だ……とドイツでは考えられているらしい。

 しかしレーニンは「保育するのが社会主義だ」と言った。毛沢東もそう言ったし、それに日本の左翼の運動家や進歩主義の人が続いた。さらには財務省がやっていることも、私有財産の否定だ。国家公有財産はいくら増えてもよくて、それは“賢明な”財務省が使う。民間のお金持ちをつくるな、という考えだ。

 というわけで、日本はトーマス・モアの理想国になっているといっていい。しかしその結果、国民は個人主義で、親子の縁が切れてしまって、少子高齢化になったので、今、慌てて騒いでいる始末だ。

 ドイツの場合には、母親は3年間は援助を受けて子どもを育てる。そして3年後に戻ってきたら、元通りの処遇をする。同期が課長になっていたら、その人も課長にするのだそうだ。3年間休んだことが、不利にならないようにするためだ。

 ではそのあとにあと2人生んだら、3人生むことになるのだから、9年間の休暇が取れるのかというと、これが取れるらしい。そのくらいやらないとドイツ人の人口が増えなくなったのだ。あるいは、そうした施策を実行したからこそ人口が増え始めて、国外からの出稼ぎ労働者を追い返すことができるようになったのだ。

 理性だけで社会を考えると失敗するので、ソ連も中国も理想主義を捨てた。「私有財産を否定して、富は社会で管理する」という理想はよいのだが、社会とは官僚のことになってしまうのだ。トーマス・モアが生きた中世の教会による支配が、役人による支配に変わっただけだった。

 教会ならばまだ家庭との共存共栄を目指すところがあったが、性急な社会主義は家庭を敵視して、子どもを国家管理の下に置くことを推進した。最初のうちはそれにもよい点があったが、長く続けたら「少子化」という副作用が出てきてしまったのだ。

 
 

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