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現実主義に目覚めよ、日本!

第14回
アメリカが必ず日本を助けるとは限らない
~戦争のルールの基本を思い起こせ~

東京財団前会長 日下 公人氏
2006年1月19日

マルクスは先人たちの思想を切り捨てた

 トーマス・モアは『ユートピア』という本の中で、「理想の国があれば」という君主制批判を書いた。彼は内容をぼかして書いたが、幸か不幸かこれが大当たりして、似たようなことを書く人が次から次へと現れた。それを後にマルクスは「ユートピア社会主義」だとして、一刀両断に切り捨てた。

 マルクスによれば「夢物語は何とでも書きなさい。しかし自分の論は科学的社会主義である。マルクスより前のものは全部、ただの夢物語である。成功する見込みがない」ということらしい。これをマルクスは「社会は階級闘争という歴史法則で動く」とか何とか、おおげさな言葉ばかりを並べて書き立てた。そもそも「階級闘争」や「歴史法則」というのがあるかどうかなどわからない。それを「科学」と称して、コテコテにした読みにくい本を書いた。

 マルクスが「ユートピア社会主義」といって先人たちの思想を切り捨てたので、マルクスに影響を受けた人たちはそれを真に受けて、ユートピアに過ぎないとバカにしてしまった。「自分はマルクスを読んだから、それより前の本は読まなくていいのである」と。迷惑しているのはマルクスの先輩たちだ。

 マルクスは「歴史は進歩する」という大嘘を言った。大嘘だと断言するのは、僕が15歳くらいの頃からマルクスのこういう考えに疑問を持ったまま、いまだに誰も晴らしてくれないからだ。大学時代にマルクス信奉の先生や学生運動家などと議論をする機会があった。そこでは「なんと子どもであるか。『資本論』さえ終わりまで読まずに、よくそんなことを偉そうにいう。これは人間的に欠陥がある」と言われるような経験がいくつもあった。

 そのときの例で、こんなことがあった。「歴史は階級闘争だ。世の中に階級は2つしかない。それはブルジョアジーとプロレタリアだとマルクスはいっている」とスピーチをする人に、僕は「マルクスのどこにそんなことが書いてありますか?」と質問した。実はマルクスはちゃんと「世の中には階級はたくさんある」と列挙しているのだ。

 マルクスは「しかし今ここから議論をするに当たっては、ブルジョアジーとプロレタリアの2つに整理して、この2つだけを取り上げて書く」と述べている。だから僕も「世の中には階級はたくさんあるとマルクスは言っている」といったら、彼らは「え? そんなことは知らなかった」と答えるのだ。そんな程度の知識で相手が子どもだと思って教えているわけだ。こういう経験が2、3回あると、もう教室へ行く気がしなくなるというものだ。

 
 

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