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現実主義に目覚めよ、日本!

第9回
外国と仲良くやることと、交渉力を磨くことは一致しない
~国際交流と国際交渉はまったく異なる仕事と考えよ~

東京財団前会長 日下 公人氏
2005年12月8日

国際交渉に参加せず決定を後追いすると、残業だらけになる

 「日下さん、小泉改革って、あれは何ですかね」と聞かれれば、僕は「ああ、あれは大蔵省潰しです。大蔵省潰しの仕上げです」という。それだけで終わり。あとはその人自身が、ウンウン唸って考えるわけだ。

 もし、あとになってその人と2回戦や3回戦があるとすれば、「仕上げとは何ですか」とか、「それは小泉さんが始めたことではなくて、そもそもはどこから始まりますかね」と聞かれることになるだろう。それについては、いろいろないい方ができる。ただ、僕の定義でいえば、「それは三木武夫さんからです」とか、そういうことになるだろう。

 僕は、一言でいって通じるような相手には、わざわざ説明はしない。「では、なぜ三木武夫から始まったのか」というような話は、その相手のほうが詳しいことが多いからだ。

 このように、相手が「なるほど、オレもそう思う」とか、「全然そう思わない」とか考えてくれることを期待して、僕は話す。しかし、たいていはそうはならないから、どうしてそうなるか、根本から説明してくれ、などと言われてしまうのだ。

 こういうとき「あなたはもっと本音をいいなさい」と僕に向かっていうことは、「裸になれ」ということと同じだ。こんな裸でよければ、僕はいくらでも見せるように努力しているが、中には僕の裸を見たくない人、僕のいうことに説明を求めずにただ面白がるような人もいるだろう。

 僕の話を「面白いから聞く」ような人は幸せだ。小泉改革など、どうなってもいい人たちといえる。「どうなってもオレの生活には大して関係ない」「関係が発生したときに努力すれば間に合う」と思っている人たちなのだ。

IHIマリンユナイテッド呉工場
新造船の建造が進むアイ・エイチ・アイ(IHI)マリンユナイテッドの呉工場(広島・呉市)
(写真提供:時事通信社。なお同写真およびキャプションについて、時事通信の承諾なしに複製、改変、翻訳、転載、蓄積、頒布、販売、出版、放送、送信などを行うことは禁じられています)

 かつてヨーロッパが国際標準を決める会議を一所懸命にやっていた。そのとき、経団連で副会長をした造船会社の人が、「国際標準をヨーロッパ主導で決められたら大変なことになるから、国際標準規格会議に日本企業も参加して、そこで頑張っておかなければいけない」と、口をすっぱくしていった。けれども、三井、三菱、住友、日立、東芝のような大企業の人たちは、「決められたら、こちらはパッとうまくやりますからご安心を」と言った。それと同じ構造なのだ。

 国際標準がヨーロッパ主導で決められれば、日本企業は不利な戦いを強いられることになる。たしかに、決められたあとでもその標準に合わせて勝ってしまうという実績は日本にはあるけれど、それゆえ我々日本人は残業ばかりさせられている。だから、「国際会議に出席して、その場で不利な条件は断り、有利な条件を世界に主張しておかなければ、あとが大変ですよ」と、造船会社の人は言ったのだが、大手企業は誰も理解しなかった。

 
 

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