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現実主義に目覚めよ、日本!

第8回
アメリカ型の論理が日本の相互信頼社会を打ち砕く
~訴訟社会の悪しき流行を撥ね返せ!~

東京財団前会長 日下 公人氏
2005年12月1日

かつて会社は株主のものではなかった

 昔、会社の概要にはたいてい「払込資本金」と書いてあった。古い会社の書類には「授権資本3億円、払込資本1億円」などとあったものだ。これは「この会社は3億円の会社だと書いてあるけれど、株主総会でそういう決議をしただけ(授権)であって、まだ株主から支払われていない分があり、払込済みは1億円しかありません」という意味なのだ。すなわち、実質上は資本金1億円の会社である。

 大正時代に、商法に特例を設けて、払込資本金は3分の1でよいとした。だからそうした会社は、正確な意味での資本主義の会社ではない。定めた通りの資本がないという、不思議な会社だったのだ。

 これは、そのころは株主などはどうでもいいと思っていた証拠といえる。株主のほうも、資本金を3分の1しか払っていないのだから、威張れなかったのだ。残りの足りない部分は、銀行からの借金となる。あるいは金持ちであれば自分のカネを会社に貸した。親類縁者からカネを集めて貸したりしていた。

 「出資」と「融資」の違いは何か。「出資」とはそのお金がなくなれば何も戻ってこないが、「融資」なら担保を取り戻せるというものだ。昔の株式会社では、融資を受けるときに担保になったのは、だいたいが機械だった。アメリカから輸入した機械などを担保にして銀行からカネを借り、これを一生懸命返すというようなケースが多かった。お金を銀行に返している間は、従業員は粉骨砕身、残業して、給料は安くても我慢した。返し終わったら、従業員は“この機械はおれたちのものだ”と思う。おれたちが安月給で働いたおかげで借金を返せたのだから。

 当時の機械というのは、だいたい20年から30年は使えたから、従業員のライフサイクルとちょうど合っていた。最初の10年間は安月給で働いて、会社が銀行からの借金を返済し終わると、その機械は完全に会社のものになる。それでも機械はまだ動くから、あと10年から20年は利益が出る。もう会社は銀行に借金を返さなくていいし、利息も払わなくていい。そうなると機械は古くからの従業員のもの、すなわち“おれのものだ”という発想があった。従業員たちがそう思っていることを、創業者社長もわかっていた。そこでどうなるかというと、「みんなよく働いてくれたから、この機械を売って君たちの退職金にするよ」となっていた。

ニッポン放送・会見する堀江社長
和解合意の記者会見をするライブドアの堀江貴文社長(東京都内のホテル)
(写真提供:時事通信社。なお同写真およびキャプションについて、時事通信の承諾なしに複製、改変、翻訳、転載、蓄積、頒布、販売、出版、放送、送信などを行うことは禁じられています)

 それなのに、ライブドアの堀江貴文社長(ホリエモン)が言ったようなアメリカ型資本主義の論理だと、「この機械は全部株主のものです」となってしまう。だから従業員たちは「エーッ」と驚く。それを裁判所に持っていっても、「法律通りに解釈すると、機械は株主のものである」ということになる。そういう経緯をたどって、ニッポン放送の社員約270人は「それなら辞めてやる」といい、フジテレビが彼らを全員引き取ってホリエモンにはもぬけの殻をつかませてやる、という話になった。

 でも、約270人全部が辞めてくれたら、ホリエモンは大喜びなのだ。ラジオ放送の免許だけが残り、人間がいなくなってくれるのが、ホリエモンにとっては一番いいんじゃないかなと僕は思う。ホリエモンから見れば、その270人はろくろく働いていない。クビを切らなくて済むから、いなくなってくれたほうがいいわけだ。

 
 

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