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現実主義に目覚めよ、日本!

第7回
公共機関の権利独占をやめさせて、悪循環から抜け出そう
~問題解決のためには、お上の許認可権を相対化してみよう~

東京財団前会長 日下 公人氏
2005年11月24日

国の買い上げをやめれば教科書問題は解決する

歴史教科書・「つくる会」教科書採択に反対する市民団体
「つくる会」教科書の採択に反対し、都庁30階で座り込む市民団体のメンバーら(東京・新宿の東京都庁)
(写真提供:時事通信社。なお同写真およびキャプションについて、時事通信の承諾なしに複製、改変、翻訳、転載、蓄積、頒布、販売、出版、放送、送信などを行うことは禁じられています)

 「教科書問題」が一時期、世間を騒がせた。これはまず教科書の内容が問題となった。内容は教育委員会が決めて、文部科学省は検査だけする。その検査に合格すれば、あとは各地の教育委員会が採用する。しかし、チェックが機能しないままに50年も経つと、あちこちおかしくなってくる。そこで、評論家の西尾幹二さんら「新しい歴史教科書をつくる会」が、“これなら偏りがない”という新しい教科書を作って出版した。その教科書には多くの人が共感したが、教育の現場には採用されていない。

 なぜか。実は背景には、教科書会社のビジネスがある。教科書はものすごく儲かるのだ。教育委員会に採用されれば、中身を毎年ほとんど変えなくても、まとめてたくさん買い上げてくれるわけだから。そこで教科書会社は、教育委員会の委員の子息を社員に採用する。教科書会社に入社した子息は、親に「うちの会社の教科書を採用してください」という。こういう構造になっているそうだ。

 これを根本的に直すには、教科書を国が買い上げて、無料で子供に渡すというシステムをやめればいい。私たちの世代が子どもの頃、教科書は買うものだった。先生に「来年の教科書はこれとこれだから、明日85銭持ってきなさい」などと言われたものだ。85銭といっても、当時はうどん1杯が7銭の時代だから、かなりの金額だ。家で親が「教科書を買わなきゃいけない」とヒソヒソ相談している。それを聞いた子どもは「勉強しなくちゃいけない」と思う。「親が買ってくれた教科書だから、隅から隅まで読まなきゃいけない」と思うのだ。

 それが今は、学校がタダでくれるのだから、ありがたみがない。やはり親がお金を払ったほうが、親の権威がつく。子どもも親に対して、ありがたいと思う。わが家のお金だと思えば粗末にしなくなるだろう。それに、教科書会社のビジネスがどうのという話もなくなるはずだ。それから、文部科学省に対しては、親が文句をいうようになるだろう。「こんなもの買わせやがって」と。今はタダだから、文句をいわない。

 だから、教科書を国が買い上げていることが、教科書問題の諸悪の根源だと思う。国や教育委員会が教科書採用権を独占していることと、無料で配っていることがいけない。でも、今のところそういう議論は出てこない。10年以上前は出ていたが、今は誰もいわなくなってしまった。

 それは、教科書会社は今のままがいいし、文部科学省の役人も今のままがいいし、親もタダのほうがいいから。裏を返せば、税金を払っている人は損をしているともいえる。だから本来ならこうしたことに対して、税金を払っている人が怒らなければいけない。教育制度改革はどうあるべきかという議論をするから、いつまでも議論が終わらないのであって、教科書を親が買う仕組みに変えて、教科書代を払う親の意見を聞けばいいのだ。教科書問題にはそういう答えがあると思う。

 
 

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