スケープゴートにされて何もかも失った長銀事件の被告
長銀の粉飾決算事件の顛末については、「第144回 長銀事件の無罪判決は当然、真犯人は別にいる」で述べた通りだ。
この事件では、大野木克信元頭取ら3人の経営幹部が逮捕され、刑事、民事の両方でほぼ10年にわたって裁判が続けられた結果、昨年までに全員に無罪判決が下されたのである。
わたしが無罪だと確信していた理由は、前述のコラムに書いた通りである。当時の大蔵省は不良債権の査定について、旧基準で決算を行ってもいいようなあいまいな通達を出していた。そこで、長銀のほか、大手18行のうち14行が旧基準で不良債権処理をしたところ、なぜか長銀の経営陣だけが罪を問われたのである。しかも、粉飾決算は、その前の杉浦頭取時代に行われていたのだが、それを立件するには時効の壁があった。
大野木克信元頭取らが逮捕・起訴された点について、もちろん「国策捜査」という確証はないのだが、背景には世間に対する政府のアピールがあったとみられている。つまり、約8兆円もの公的資金を注入するためのスケープゴートにされたのが長銀の経営陣だったというわけである。
気の毒なのは長銀の経営陣3人である。裁判が10年近くも続いた上に、社会的な地位も失ってしまった。いくら無罪判決が出たといっても、おそらく世間の人の頭のなかには、「あの長銀の経営陣3人は粉飾決算をした悪いやつだ」というイメージしか残っていないに違いない。
こうした構図は、事情の違いこそあれ、今回の小沢氏の秘書逮捕と似ていないだろうか。そして、仮に長い裁判の末に小沢氏の秘書が無罪を勝ち取ったとしても、世間はこの事件のことをすっかり忘れているはずだ。
たしかに、かつての小沢氏は旧田中派の7奉行の1人として、膨大な企業献金を受けて、さんざん悪いことをしていたに違いない。しかし、その後に政治資金規正法ができて、当時からすれば、かなりましになった。小沢氏にしても、金の流れを隠して不正に所得隠しをしていたわけではなく、表には出していたのである。
3月17日の会見で小沢氏は「企業の献金を全面禁止するべきだ」と発言して与野党に波紋を呼んでいるが、その本心は「こんなちゃんと処理していても捕まるようなルールなら、いっそのことやめてしまえ」というところなのだろう。
もちろん、わたしは今回の捜査が国策だと断言しているわけではない。しかし、わたしはこの事件で深く感じたことがある。それは、「権力者は強い」「権力は恐ろしい」ということだ。長銀の3被告にしても、結果的には政府のアピールのために、地位も信用も失ってしまったのである。
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