構造改革を主張する竹中平蔵氏との論争
1990年代以前は、働く人の失業を防ぐための対策として、現在よりも対象が広く、期間も長い雇用調整助成金制度があった。そうした制度が充実していたために、企業は不況になっても労働者をクビにすることなく、雇っておくことができたのである。
そうした政策を「構造改革に反する」として目の敵にしたのが小泉内閣である。その新自由主義のもとでは、それまでの「労働者を企業が守る」という政策から、「労働者のクビをどんどん切り、その代わりに再就職を企業が支援する」という政策に一変したのである。
その思想を広めたのが構造改革派と呼ばれる人たちであり、その中心人物が竹中平蔵氏であった。いったい彼らは、なぜそのような政策をとったのか。
竹中氏らの理屈では、会社をクビになった人たちを労働市場に吐き出せば、より人を欲しがっているバイオやIT関連の新成長企業に移っていくというものだった。そうなれば、国民全体の生産性が高くなるというわけだ。
この理屈は、どう考えても無理がある。失礼ながら、たとえば製造業の派遣労働者がクビを切られて、その人たちがIT業界やバイオ関連企業の技術者になれるだろうか。まずなれることはない。会社をクビになった人が成長分野に移っていくという図式は、そもそも存在しなかったのである。
当時、私はその点について竹中氏とけんか同然の論争をしたことがある。私が竹中氏に向かって、「そんな都合の良い話が、うまくいくわけないじゃないですか」と言った。すると、竹中氏はなんと答えたか。「みんながちょっとずつ上にいけばいいんでよ」というのである。「あなたは、日本国民を全員転職させるつもりか!」と私はあきれはてた。いくらなんでも、そんなことはありえない。
今考えれば、とんでもない発想であることがよくわかる。だが、当時の日本ではこんな考え方がもてはやされ、経済評論家やエコノミストの大半が支持していたのである。
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