第17回
ドライブレコーダーの本格的普及は実現可能か
モータージャーナリスト 岡崎 五朗氏
2006年3月10日
事故防止に大きな効果を発揮するドライブレコーダー
航空機事故が起こると、真っ先に回収されるのがフライトレコーダーだ。フライトレコーダーに記録された各種の飛行データを解析すれば事故原因をかなり正確に把握することが可能であり、有効な事故防止対策につながる。フライトレコーダーの歴史は古く、本格的に普及し始めたのは1960年代のこと。日本では1966年に起きた全日空羽田沖墜落事故をきっかけに、日本で運行するすべての旅客機にフライトレコーダー(およびボイスレコーダー)の搭載が義務付けられた。
それに対し、自動車の世界に同種のシステムが搭載され始めたのはごく最近のこと。しかし、すでに約3万台が販売され、なかでも東京都内を走っている約20%のタクシーがドライブレコーダーを搭載しているという。まだまだ営業車用がメインとはいえ、最近では一般ドライバー向けの商品が開発されるなど、ドライブレコーダーは大きな注目を集め始めているのだ。
複雑で高価なフライトレコーダーとは違い、ドライブレコーダーの仕組みは簡単だ。主要パーツは「小型CCDカメラ」「速度パルス受信部」「加速度センサー」「メモリーカード」の4点。これらを組み込んだボックスをフロントウィンドウに取り付け、あとは電源コード等を接続するだけ。CCDカメラは0.2秒間隔で常に画像を撮影し続け、ある一定以上の加速度(衝撃)を感知すると、感知前12秒間、感知後6秒間、合計18秒間の画像をメモリーカードに記録する(日本交通事故鑑識研究所製Witnessの場合)。ここでは画像と表現したが、0.2秒間隔=秒間5コマの写真を連続して再生すれば映像になる。もちろん、システムは速度や加速度も記録し続け、メモリーカード経由でパソコンに取り込めば、客観的なデータが取得可能になる。まさに完璧な「目撃者」である。
これまでは事故が起こった際の原因特定を当事者や、たまたまそこに居合わせた目撃者の証言に頼っていた。たとえば相手が赤信号を無視して突っ込んできたとしても、目撃者がいなければ誰もそれを証明できなかったのだ。また、運良く目撃者がいたとしても、その人が正確な証言をしてくれるとは限らない。しかしドライブレコーダーがあれば客観的な原因特定が可能になる。メモリーカードに残ったデータを利用すれば「オマエが悪い!」「いや悪いのはオマエのほうだ!」なんて水掛け論は一掃できるのだ。
事実、ドライブレコーダーを採用したタクシー会社からは、ドライブレコーダーの装着によって事故原因の特定が可能になり、事故処理に要する時間とコストが削減できるというメリットが挙がっている。さらに、ドライブレコーダーの装着は事故防止にも大きな効果を発揮している。もっとも大きな効果をあげたタクシー会社では事故が42%減。もっとも効果の少なかった会社でも6%減。平均では15%減っている。
国土交通省自動車交通局
『平成16年度映像記録型ドライブレコーダーの搭載効果に関する調査報告書』
ドライブレコーダーの装着によって事故が減るのはなぜか? これには二つの理由が考えられる。一つは心構えの問題だ。ドライブレコーダーは「自分の過失」も正確に記録するため、事故を起こしてしまった場合、いくら巧妙な言い訳を考えても会社側には通用しない。常に上司を隣に乗せているようなものである。そんな心理的プレッシャーが、ドライバーに安全運転を励行させる。
もう一つは、ドライブレコーダーを使った安全運転講習だ。ドライブレコーダーには事故の際の大きな衝撃だけでなく、急ブレーキをかけた際にも記録を残す仕組みが入っている。たとえ事故につながらなくても、急ブレーキは事故の一歩手前の操作だ。急ブレーキを何度も繰り返していたら、そのドライバーの事故リスクは高いと判断できる。タクシー会社では、そうしたドライバーに安全講習を集中的に受けさせると同時に、他の低リスクドライバーにも事故時の映像や急ブレーキ時の映像を見せ、どうすれば事故や急ブレーキを防げたかを考えさせる。ドライバー全体でヒヤッとした体験を共有することによって、事故防止スキルの向上を図るわけだ。なお、先に挙げたもっとも大きな事故削減効果を発揮したのは、他社よりもこの種の講習を積極的に行っているタクシー会社だという。
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