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「安全なクルマ」を再考する!

第16回
シートベルトの非着用は、他人にもリスクを与えている

モータージャーナリスト 岡崎 五朗氏
2006年2月26日

シートベルトの必要性が理解されていない現状

 後部座席シートベルトの装着が、前席乗員を含むすべての乗員の安全性に大きく寄与することは前回述べたとおりだ。後部座席シートベルトが衝突時にいかに重要か、またシートベルトをしていないといかに危険かを実感するためにも、日本自動車連盟(JAF)による実験映像をご覧いただくといいだろう。

 この実験は、時速50km/hでの正面衝突をシミュレートしたものだが、シートベルトをしていない後部座席乗員が前の座席に激しくぶつかっている様子がよく分かる。この際の衝撃は体重のおよそ30倍、つまり体重50kgの人間なら1.5トンに達する。まさに人間凶器である。

 しかし、全国平均の後部座席シートベルト装着率は一般道路で8.1%、高速道路でも9.8%に止まっているのが現状だ。政府は2012年には交通事故死者を5000人以下にする目標を掲げ、総合的な交通安全対策を推進している。これには道路構造や信号機の改良、ITSの推進などさまざまな施策が含まれているが、“灯台もと暗し”の感があるのは否めない。安全の基本であるシートベルトの着用を徹底する。まずはここから始めるべきである。

上/一般自動車道におけるシートベルト着用状況調査結果(平成17年10月)
下/高速自動車道等におけるシートベルト着用状況調査結果(平成17年10月)
出典:『シートベルト着用状況全国調査』 警察庁/JAF

後部座席シートベルト非着用

後部座席シートベルト着用
『後席シートベルトの有効性検証のための前面衝突実験』(資料提供:自動車事故対策機構
こちらから動画を見ることが可能

 後部座席シートベルト着用を義務付ける案は以前からあった。しかし浮上してくるたびにつぶされてきたという経緯がある。クルマに乗ったらシートベルトをする。たったこれだけのことで数多くの人命が救われるのに、どうして法制化ができないのか。以前、警察庁の関係者に会ったとき、この件について聞いてみたところ、次のような答えが返ってきた。「法制化をしても、罰則規定を設けなければ高い効果は期待できません。しかし、罰則規定を設けることに対してわれわれは慎重にならざるを得ないんです」。

 彼のいうことにも一理ある。以前にも書いたが、法律とは「必要性を感じ」「破ったら相応のペナルティを受けるのは当然だ」と、誰もが納得できる妥当性を有していることが基本である。「男性は外出時にネクタイ着用。それを破ったら罰金10万円」「万引きしたら死刑」などという法律ができたとしても、国民の理解は絶対に得られない。後部座席シートベルトに照らしてみると、日本の場合、まだまだ多くの人が「しなくても大丈夫だ」と考えている(そうでないなら着用率はもっと高くなるはず)。そんななか、後部座席でのシートベルト不装着に対して罰則を設けたら大ブーイングが起こるだろう。だから、行政も立法もおよび腰にならざるを得ないのだ。

 もっとも、これは少々お人好しすぎる解釈かもしれない。理解が得られないから法制化を見送るというのは、公僕としては明らかに職務怠慢であり、本来ならそういった立場にいる人々が率先して国民の理解を深めるよう努力をするべきだ。しかし、政治家も官僚も現場の警察官も、後部座席シートベルトの重要性を依然として理解していないのが現実である。シートベルトをしないでパトカーの後部座席に乗っている警察官は大勢いるし、お抱え運転手付き高級車の後部座席に乗っている政治家でシートベルトをしている人もほとんどいない。これでは「後部座席でシートベルトをしていなければ罰を受けるのは当然だ」というコンセンサスが国民の間に生まれるわけがない。

 それどころか、シートベルト装着の法制化に反対する政治家までいるのだから始末が悪い。民主党の小沢一郎氏が、以前テレビでこんな発言をしていた。「日本の国民やマスコミは、何かあるとすぐにお上の責任だという。しかし、行政がすべての面倒をみるような国は大人の国じゃない。国民一人ひとりが自己責任において自らの進むべき方向を選択するような大人の国になって欲しいと思うんです」。ここまでは100%賛成する。けれどその後がマズかった。小沢氏いわく、「たとえばシートベルト。あんなものはしていなくたって他人に迷惑をかけるわけじゃない。それをわざわざ法律で義務付け、取り締まるのはどうかと思いますね」。

 確かにシートベルトは自分の命を守るものだが、それと同時に他人の命を守るものでもある。彼の発言からは、その視点がスッポリと抜け落ちている。よく考えてみて欲しい。自分が事故を起こしたとする。そして、相手がシートベルトをしていなかったがために死んでしまったら……。シートベルトをしていれば軽傷程度ですんだ事故でも、死亡事故となり、交通刑務所行きとなってしまう場合もあるのだ。それはある意味、シートベルトをしていなかった被害者から大きな被害を受けたともいえる。そう、他人には迷惑をかけてないから……といってシートベルトをしない人は、実は他人に“交通刑務所行きのリスク”を与えているのである。また、シートベルトをしないでケガをしたり死亡した場合、その保険金はシートベルトをしている人が支払った保険料からも支払われる。これも広い意味での迷惑である。

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