「中国産食品は調達しない」
第三の事例は、米国オリンピック委員会(USOC)による「北京五輪参加の米国選手たちの食糧は中国の現地からは一切、調達しない」という方針だった。この方針は2月9日に明らかにされた。
新方針によると、米国オリンピック委員会は北京五輪に加わる600人以上の自国選手用に、日本や米国本土から調達する鶏肉などまず肉類1200キロほどを五輪開会の2カ月ほど前に、中国へ運びこむという。原則として食糧、飲料すべて中国産は使わないという方針が発表されたのだ。
この中国産食品の忌避の最大理由は「中国の鶏肉には禁止薬物のステロイドが多量に含まれているため、選手がその鶏肉を食べると、競技前の薬物検査で引っかかる危険がある」とされていた。鶏の飼養のために使われたステロイドがその肉を食べた人間の体内に入って、検査された際に、筋肉増強のステロイド剤使用と誤解される危険がある、というわけだ。
しかしそのほかにもUSOCの発表では、中国での食物類には殺虫剤などの各種農薬や獣医用の違法薬品が含まれている可能性が高いことが指摘されていた。米側のこの種の懸念は考えてみれば、ごく当然である。この1年ほど、米国内では中国産の魚貝類、野菜類に始まり、歯磨き粉や医薬品など有害な物品の流通が広範に伝えられてきた。ブッシュ大統領が中国から輸入される産品の有害性を国家レベルでの危険としてとらえ、昨年後半には連邦政府としてのその総合的な対策を打ち出したほどだった。だから米国全体としてみれば、米国人選手が中国領土内に入り、北京でスポーツ競技をするということ自体が中国での飲食物の有害汚染という問題を改めて突きつけてくる、ということになる。
USOCが北京五輪参加選手の飲食に関して中国産品のボイコットを決めた背景には、既に中国産品の有害性の被害にあった米国人スポーツ選手が存在していたという事実もある。米国スポーツ関係者の間でよく語られるのは、昨年9月に北京でトライアスロンのレースに参加したサラ・グロフ選手の事例である。
26歳の女子選手のグロフさんは北京で地元の水と食糧を摂取した結果、ひどい吐き気と下痢に襲われ、食中毒の症状を呈した。すぐに入院させられ、抗生物質を投与され、点滴注射を受けた。そのあとすぐに競技に参加したが、体の不調は克服できず、第55位に終わったという。グロフ選手は「もう中国産品は絶対に体内に入れない」と断言しているそうだ。USOCの今回の決定も、こうした現実に立脚しているのである。これもまた米側からみれば、中国の食べ物の汚染という中国の闇の一つだともいえよう。そのほかに大気汚染や衛生汚染という課題もなお残っている。
要するに、今回のUSOC決定も中国の年来の暗渠(あんきょ)に対し、米側がそれを改めて認め、早めの最大限の衛生上の予防的対応をしたい、と告げていることになる。
以上、眺めてくると、米国は北京五輪に対しても、中国当局に対しても、なお複雑な留保をつけた対応をしている現実が浮かび上がる。そして米国ではやはり政治とスポーツは完全に切り離すことの難しい国家活動、人間活動の一部とされる、ということなのだろう。
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