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“外交弱小国”日本の安全保障を考える

ダルフールの虐殺を止めようとしない中国

 「わたしは中国政府がダルフールでの大量虐殺に責任のあるスーダン政権に対し、より積極的な圧力をかけ、その虐殺を止めさせることを期待してきたが、その希望を捨てざるを得なくなった」
 「中国政府当局者はダルフールに対するわたしの懸念に対し、中国がその地での悲劇を止めるために最大の努力をしているという旨を何度も伝えてきたが、現地での厳しい実態は少しも変わらず、多くの犠牲者たちの苦痛はなお続いているのだ」

 このようにスピルバーグ氏はダルフールの虐殺への中国政府の責任を最大の理由として辞任に踏み切ったことを明言していた。

 ダルフールとはスーダン領内の西部の地方である。この地域でアラブ系住民が非アラブのアフリカ系住民を大量に虐殺し、そのアラブ系住民をスーダンの中央政府が支援している。中国はスーダンとは石油開発をはじめとして、経済、政治、軍事の各面で太いきずなを保ち、巨額の援助までしている。ダルフールでアラブ系民兵が使う武器類も中国からの供与だという。中国政府は虐殺を止めるための行動をとくにとっていないとされる。だから中国はダルフール問題では国際社会の批判を受け、とくに米国内では連邦議会での全員一致の中国非難決議をはじめ民間人権擁護団体の総非難をあびている。

 米国でのこの動きは明らかに政治をスポーツと結びつけ、とくに中国側が切望する北京五輪の成功裏の挙行への意図を弱点として衝くという形をとっているといえる。「中国政府がダルフールでの大量虐殺を許容するならば、米国側は北京五輪をボイコットする」という意味合いのリンケージの抗議の意図が明らかに込められていた。スピルバーグ監督の辞任もこのボイコットの一種だとみなすこともできるだろう。

 スピルバーグ氏に対してはかねて米側の人権擁護団体などから、そもそも北京政府の「芸術顧問」を務めることがおかしいとする非難が表明されていた。その非難のなかではとくに「スピルバーグは現代のリーフェンシュタールになるのか」という糾弾が痛烈だった。

 リーフェンシュタールというのは1930年代、ナチス・ドイツのヒトラーの命令でベルリン五輪記録映画『オリンピア』を制作したドイツ人の有名映画監督だ。ナチスのプロパガンダ映画を作ったとして後年、芸術界、映画界でも、批判されてきた人物なのだ。この非難は自分自身がユダヤ系であり、ナチスのユダヤ人虐殺を主題とする話題の映画『シンドラーのリスト』まで作ったスピルバーグ氏にとってはとくに苦痛だったことだろう。

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