金体制の崩壊につながる三つの可変要因
ニクシュ氏の予測をさらに追ってみよう。
米国や日本、そして国連の制裁措置により北朝鮮のエリート層が深刻な打撃を受け、従来の生活水準を大幅に下げねばならなくなったと仮定しよう。その場合にはブッシュ政権内部の一部の人たちがはっきりと望むように、金正日政権が崩壊するのか。政権変更(レジーム・チェンジ)へとつながるのか。
ニクシュ氏は次のような概要を述べる。
「第二エリート層に対する金正日への絶対的服従を強いる教化が常になされており、金の神格化が進んでいる。エリート層は情報も限られており、国際情勢などに疎い。公安組織の監視も厳しく、政権へのささいな抵抗でも家族への懲罰を含む厳罰が科される。エリート層は都市部に集中的に居住しているので、公安側の監視や統治も容易となる」
ニクシュ氏はその一方で北朝鮮内部には金正日独裁体制を揺るがせうる兆しもあることを指摘する。各地の闇市の広がりによるエリート層の間での腐敗、消費者心理、韓国の文化や風俗の認知、米国の民主化奨励のラジオ放送の聴取の広がりなど、である。
そしてニクシュ報告は結論として次のように述べるのだった。
「北朝鮮の国内政策と国内情勢が今後5年間に重大な変化を果たすことは、ありそうにない。金正日の政策は北朝鮮の国内システムをいまのまま保持できる能力を有するようにみえる。金正日は経済面での変化や開放への動きに対し従来の支配と教化とエリート層優遇によってうまく均衡をとっていけるだろう。エリートと軍部は社会の変化にもかかわらず、なお金正日への忠誠を保っているようにみえる」
「米国の制裁と北朝鮮の今後の違法活動への阻止の動きは北のエリート層の生活に痛手を与えることは可能だろう。だがそれだけでは彼らの生活水準を1990年代なかば以下に引き落とすことはたぶん難しいだろう」
以上は日本や米国にとっては暗い見通しである。悲観的な展望とさえ言えるだろう。非人道的な無法の独裁政権が米国や国連の制裁にも耐えていくだろうという予測だからだ。
しかしニクシュ氏は報告の最後にこの見通しを大きく変えうる三つの可変要因を強調していた。この点は最も重要だといえる。
第一は中国である。中国がいまの北朝鮮へのかなりの支援という態度を大きく変えて、日米両国などに真に同調すれば、北朝鮮は苦境に陥るというのだ。
第二は金正日総書記の健康である。金氏自身に肉体的な激変があれば、金体制の崩壊にも一気につながりかねないというのだ。
第三は北朝鮮のエリートへの韓国その他の外部世界からの「汚染」である。閉鎖国家のエリートたちが外部世界でいまなにが起きているかを実感として十分に知れば、金体制への忠誠も根底から崩れうる、というのである。
以上の分析は米国のベテラン専門家個人の考察だとはいえ、これから北朝鮮の脅威や無法に本格的に立ち向かう日本にとっても非常に有益な指針であろう。
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