第4回
中国の石油外交が世界に脅威をもたらす
~着々と築かれる独裁政権ネットワーク~
国際問題評論家 古森 義久氏
2005年8月11日
米国の「敵国」に名指しされた中国
ついに出た、という感じだった。
「われわれは中国といかに戦うか」
こんなタイトルの大論文がアメリカの総合雑誌に出たのである。副題には「次の冷戦」とあった。政治や経済のテーマを平均層向けに分かりやすく紹介する著名な雑誌『アトランティック・マンスリー』の最新号だった。
論文は台湾有事などで米中両国が実際の軍事衝突をすれば、事態がどう展開するかという具体的なシナリオを描いていた。つまり「米中もし戦わば」という内容である。
この過激な記事の筆者は同誌のベテラン記者で国際問題専門のロバート・カプラン氏だった。これまでアメリカの中国研究者や外交、安保の専門家の間で中国の軍事拡張や脅威に懸念を表明する向きは多かったが、実際の戦争のシナリオを正面から描いて、発表するというケースはなかった。
だからこの論文は当然ながら論議を呼び、「事態を単純化しすぎている」とか「極端すぎる」という批判をも招いた。しかしこうした戦争シナリオが発表されること自体に、今のアメリカの対中観の硬化が象徴される点は認めざるをえない。こんなシナリオが出るところまで米中関係は険悪化の様相を示すに至った、ということだろう。
中国の軍拡がアメリカ側の懸念を深めていることは前回のコラムでも説明した。人民解放軍の朱成虎将軍の「核攻撃発言」が米側に激しい驚きと反発を生んだことも詳述した。その後、アメリカの国防総省は年次の「中国の軍事力」報告書を7月中旬に公表し、中国の海軍や空軍の顕著な増強への警告を発した。
「中国軍の最近の近代化は、東アジアで活動する他の諸国の近代的な軍隊にとって確実な脅威となる。中国軍が台湾との紛争に必要な戦力以上の能力を得ようとしていることが明白だからだ」
報告書のこうした記述はブッシュ政権のラムズフェルド国防長官が6月のシンガポールでの「アジア安全保障会議」という国際会議で演説した際の言葉を基盤にするといえよう。
同長官は中国の軍拡を脅威と断じて、次のように述べたのだった。
「中国はアメリカ、ロシアに次ぐ世界第3位、アジアでは最大の軍事費を使い、しかも毎年、大幅にそれを増額している。また世界の多くの地域に到達が可能なミサイルを開発し、配備している。いま中国に脅威を与える国は存在しないのに、なぜ軍拡を続けるのか」
このようにブッシュ政権や議会の共和党、民主党両党の多数の議員たちは中国への姿勢を硬化させるのだが、その一方、対テロ戦争やイラクでの治安回復作戦で中国の支援を保っておこうと神経を配らす。さらに北朝鮮の核兵器開発問題でも、アメリカは中国の北朝鮮への説得に期待する姿勢をみせる。
経済全般にしてもアメリカは中国製品の自国市場への洪水のような流入による被害を訴える一方、対中の貿易や投資の利益は十分に認知し、相互補完の関係の重要性をも強調する。だがそのまた他方の高い次元では、中国全般への警戒を強めている、というふうなのだ。
しかし、最近のワシントンでの中国へのこうした錯綜した態度のなかで特に目立つ重要な動きは、軍事面での中国への警戒感や懸念だけでなく、中国とアメリカとの利害のぶつかりあいが経済や外交を絡めて、グローバルな広がりをみせてきたことの指摘である。
軍事色の濃い中国のエネルギー外交
前述のカプラン論文でも、中国とアメリカとの対立は単に台湾問題や東アジアに限らず、世界規模に拡大してきたことを強調していた。中国の台頭がグローバルな規模でのアメリカとの対立や摩擦を引き起こしている、というのだ。その最大の要因は中国側の積極果敢なエネルギー資源確保の外交だといえる。そこでは「石油」がキーワードとなる。
ここ数ヶ月、ワシントンでは連邦議会や民間のシンクタンクで「中国のグローバルな拡張」をテーマとする公聴会や討論会がまさに花盛りである。要点はアメリカがその中国の世界規模の台頭にどう対処するべきか、ということになる。
こうした集まりの具体例をあげよう。
5月はじめにはブッシュ政権に近い研究機関「国際評価戦略センター」が連邦議会内で「中国の中南米への戦略的着手」というタイトルでシンポジウムを開いた。6月中旬には議会の下院で超党派の有力議員15人が「中国のグローバルな軍事、政治、経済での進出と拡大への対応を協議するため」に、「中国議員連盟」を結成し、記者会見を開いた。7月下旬には下院国際関係委員会が「中国のアフリカにおける影響力」という題で公聴会を開催した。同じ7月下旬には議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」が「中国の拡大するグローバルな影響=その目的と戦略」と題する公聴会を開いた。
これらはほんの氷山の一角である。首都ワシントンでは文字どおり毎週、中国への対応を協議、討議する国政レベルでの催しが開かれているのだ。
こうした集まりで表明されるのは、中国が急成長する経済力を基礎にこれまでプレゼンスの少なかった中南米、中東、そしてアフリカという地域でエネルギー確保を主眼とする勢力の拡大を強め始めたことへの懸念である。それら各地域でアメリカの利益が損なわれることへの心配でもある。しかも中国のこの種の進出は後述するように単に経済拡張に留まらず、軍事や政治の色が濃いため、アメリカのグローバル戦略にまで大きな影響を及ぼしがちなのである。
次第に広がる「反米ネットワーク」
さてアメリカ側の政府高官、経済人、さらには専門の研究者らの最近の報告を基に、中国のこの種の進出の実例を一部、列記してみよう。
[中南米]
● ベネズエラ(昨年から今年にかけてのベネズエラのチャベス大統領と中国の曽慶紅国家副主席の相互訪問の結果、中国はベネズエラの15の油田に3億5000万ドル、天然ガスに6000万ドルなどエネルギーのインフラへの投資を決め、見返りに1日10万バーレルの石油供給を保証された)
● ブラジル(昨年11月の胡錦涛主席の訪問で中国は石油、天然ガス、パイプラインなどブラジル側のエネルギーのインフラ建設への投資100億ドルを決めた)
● エクアドル(中国はエクアドルの石油資源を購入すると同時に大型投資をも開始した)
● アルゼンチン(中国はアルゼンチンの海底油田の開発の権利を50億ドルで取得した)
● ペルー(曽副主席の訪問を機に中国はぺルーとの共同の石油開発協定に調印した)
以上のような動きは年来、アメリカの勢力圏とみなされてきた中南米への中国の進出である。この種の石油開発主体の経済行動はそれ自体、もちろんなんの不当性もない。しかし中国の場合、反米の旗印を鮮明にしたベネズエラのチャベス大統領への急接近や、これまたアメリカ離れを始めた観のあるブラジルのデシルバ政権への積極的なアプローチにはなまなましい政治意図がうかがわれる。
しかも中国のエネルギー開発にあたる「中国石油」「中国海洋石油」といった企業は純粋な民間企業とは異なり、いずれも国有であり、政府当局とはぴったり一体となっている。それだけに単なる経済活動のようにみえる動きにも明らかに強烈な国家意思が含まれているとみるのが順当なのだ。
だからアメリカ側では中南米での中国の「石油外交」は安全保障や政治の狙いを秘めた戦略的動向のように映ることになる。とくに中国は最近、中南米の反米の旗手であるキューバのカストロ政権への軍事支援を強め、旧ソ連がアメリカに対し電子情報収集の拠点としていた通信基地の使用を始めたとされ、その動きは総合的には反米包囲網とも受け取れるのである。
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