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「場当たり個人情報」から「攻めの情報活用」へ

第14回
「クラス連絡網が作れない」―
―各地で起こる個人情報の狂騒
~保護法への視点が間違っている~

ネット情報セキュリティ研究会会長 田淵 義朗氏
2006年6月14日

 何が個人情報かよく分からないのに、自分が不利な立場になると「それは個人情報だから教えられない」という風潮が世の中にはびこりつつある。その結果、地域活動に支障をきたしたり、保護される個人が逆に不利益をこうむったりする事態が生じていることは、このコラムでもずっと書いてきたことである。

 個人情報の保護という耳当たりのよいキーワードが一人歩きしている結果ともいえるが、この傾向が様々な分野で拡大してくると、とんでもない社会が現出してくる。それは匿名が正当化される「覆面社会」である。組織や個人に至るまで、匿名にしておくことが何となく正しいのだ、という流れが静かに加速している。これは非常に危険なことだ。

各分野で起きている個人情報保護の過剰反応

 それでは、過剰反応の事例を見ていくことにしよう。

 今、社会の様々な分野で起きている「場当たり個人情報」現象を整理すると次のようになる。国民生活センターが公表した「個人情報保護法の過剰反応」事例やマスコミ報道から拾ってみた。

【医療・福祉分野で起きていること】
病院が入院患者の家族の問い合わせに情報開示を拒否する。児童の虐待情報が救済機関の関係者に伝わらない。災害弱者の情報を自治会などで情報共有しようとしても独居老人・心身障害者などの情報が得られない、病院が介護に必要な情報を福祉施設などに教えない ―― など。

【学校で起きていること】
合格者氏名でなく番号のみ掲示する、クラスの緊急連絡網、級友名簿、卒業アルバム、卒業名簿の作成を取りやめる。大学などの就職課で卒業生名簿の閲覧を中止か制限する。担任の先生の住所が不明なため、子どもが年賀状を出せない。校内の展示物や表彰作品から子どもの名前を消す。試合で優勝してもメンバーの氏名を公表せず、学校名だけアナウンスする ―― など。

【地域活動で起きていること】
国勢調査など公益のため必要な調査へ協力しない。住居から表札を外す、コミュニティー活動に必要な個人情報の提供を拒否する ―― など。

【官庁、公共団体で起きていること】
国家試験合格者の氏名を発表しない、懲戒免職者の公表を取りやめる。省庁幹部の経歴を開示しない。刑事裁判記録の閲覧を禁止する、従来情報公開してきた個人情報の取り扱いルールを見直す ―― など。

【企業で起きていること】
利便性を捨て、過度にセキュリティを高める、例えばハードディスクのないパソコンに総入れ替えする。仕事を自宅に持って帰ることを禁止する。SOHOなど個人事業者の仕事が急減する。採用予定者が以前在職していた企業に、履歴・職歴書に虚偽がないか確認を求めても情報開示を拒否される。本人が自分の個人情報に関して開示を請求しても、受け付け窓口が必要以上に複雑な手続きを要求する ―― など。

【警察、消防事件に関すること】
警察が犯罪被害者の氏名、住所などを原則匿名扱いとし公表しない。消防が出火場所の住所番地を明らかにしない ―― など。

 このように様々な分野で過剰反応現象が起こっている。それぞれ詳細に見比べていくと、萎縮や過剰反応の背景が見えてくる。

 
 

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