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「場当たり個人情報」から「攻めの情報活用」へ

第4回
事実上野ざらしの「2ちゃんねる」での企業・団体への誹謗中傷
~弁護士費用を払えない中小企業は対抗策なし~

前回、懲戒処分を受けた自治体職員の氏名をホームページで公表するケースの、ネット上への個人情報流出の危険性について書いた。書いている間に「大阪市が職員の懲戒処分を市のホームページで公開する方針を明らかにした」(7月26日)というニュースが流れてきた。また読者の方から「犯罪者の氏名をネットで公開するのは当たり前ではないか」とのメールもいただいた。
いろいろな意見があって当然だが、情報公開の際、公表する側も報道する側も、ネットという手段の是非に関して、もっと議論を深める必要はあるように思う。その問題提起だと受け取っていただければ幸いである。
そこで今回は、匿名者によるネットへの情報流出に関して考えてみたい。なかでも企業および企業内の特定個人への誹謗中傷についてである。ここには内部告発の類も含まれるが、今回は、明らかに名誉毀損(きそん)や業務妨害にあたる事例についての考察としたい。

ネット情報セキュリティ研究会会長 田淵 義朗氏
2005年8月22日

犯人追跡は困難で影響が深刻な「匿名掲示板」

 ベストセラー本「電車男」の出版などで最近は一種の市民権を得た感のある「2ちゃんねる」。新潟中越地震の募金呼びかけや、原爆ドームの折鶴放火に対する復旧運動など、評価に値する活動も少なくない。

 しかし一方で、2ちゃんねる上では、個人に対する誹謗中傷や、企業・団体の代表者・役員・社員への実名での攻撃が氾濫している事実もある。NIS研に来る相談で最も多いのが、こうした企業や団体に対する「誹謗・中傷・攻撃」の問題である。

 実は、掲示板での誹謗中傷の問題は、企業・団体にとってクレーム以上に厄介である。というのも、2ちゃんねるのような匿名掲示板では、書き込み者がどこの誰なのか追跡が困難であり、また、社内の事情を知りうる人間しか書けないだろうと思わせる書き込みは、それを読んだ人が「本当のことではないか」と思ってしまうからだ。犯人の特定が容易でなく、掲示板に長い間さらされて会社の信用が毀損され、業績に影響が及ぶ。2ちゃんねるといえば、月間6億ページビューの日本最大の掲示板である。書き込まれた内容によっては、影響は深刻だ。

 2ちゃんねるでは、東京都内の動物病院との裁判(※1)に敗訴したことから、2003年1月よりすべてのスレッドにおいて、書き込みを行った利用者のIPアドレスの保存を始めた。したがって現在は完全匿名掲示板ではなくなっているが、だからといって犯人の割り出しが容易になったとはいえない。通常、誹謗中傷を書き込まれた企業・団体は、事実に相違するとして、情報を書き込んだ情報発信者の開示と、該当箇所の削除を求める。が、これが一筋縄ではいかない。

※1 東京都内の動物病院との裁判=2ちゃんねるの書き込みによって名誉を傷つけられたとして、東京都内の動物病院が2ちゃんねるの管理人に損害賠償を求めた訴訟。2002年6月、東京地裁は2ちゃんねる側に400万円の賠償を命じた。

企業・団体に関する書き込みは原則放置

 もっとも大きな理由の一つに、企業・団体に関連する書き込みは「原則放置」とする掲示板管理者のポリシーがある。「原則放置」とは、削除申請が出されても、原則は削除しませんよ、ということである。

 さらに、削除申請を出すと、それ自体が削除申請掲示板に掲載されてしまい、さらにネット上で耳目を集める結果になるから始末が悪い。

 企業・団体の削除ガイドラインが個人よりハードルが高い理由は不明だが、内部告発の類を想定しているのかもしれない。また2ちゃんねらー(2ちゃんねるのユーザー)の中には「企業やその役員などは広く社会に公知されている情報だから、個人にあたらず企業情報の一部だ」と主張する人たちがいる。

 現在2ちゃんねる管理側では、個人情報保護の観点から、個人への誹謗中傷の場合はその人を特定できる住所や電話番号などを削除するようになっている。しかし、企業・団体につらなる個人(代表者や役員、社員)については、個人情報に該当しないとして、「原則放置」されている。

 こうした対応は大いに問題がある。なぜなら、前後の文脈の中で個人名が出てきて、誹謗中傷されるような場合は、仮にカモフラージュされていても、本人の特定が容易であれば名誉毀損や侮辱罪に該当するからだ。

 個人情報保護法の見地からすると、「企業・団体に帰属する個人も個人情報」としている。また、「個人を識別できるものなら個人情報に当たる」と定義されている。したがって例えば、該当するURLを示して「ネット○報セキュリ○○研究会の会長である○淵は悪人だ」とした場合、容易に筆者のことだと識別できるため、個人への誹謗中傷と同列となる。それがネット上に放置されれば、原則、個人として削除要求するに違いない。

 また逆のケースだが、企業・団体の創業者などの中には、自分のことはともかく会社の誹謗中傷はやめてくれ、という場合もあるだろう。いずれにしても、企業・団体だから「原則放置」という2ちゃんねるの対応は問題が多いといわざるをえない。

 
 

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