第96回
国民が首相に求めていること
経営コンサルタント 大前 研一氏
2007年9月27日
去る9月12日、安倍首相が辞意を表明し、同26日に内閣は総辞職した。この突然の降板劇を受けて自民党総裁の座についたのは、大方の予想通り福田康夫元官房長官だった。福田氏と一騎打ちをした麻生太郎幹事長も善戦はしたものの破れた。また福田首相は党4役に派閥の領袖を据えて論功報償人事を行ったものの、内閣は安倍内閣とほとんど同じ顔ぶれである。手堅さが売り物、というが何をやるための内閣なのか、国民には伝わってこない。
受け止め方は国内外で否定的――安倍氏の突然の辞任
わたしは、安倍氏は遅かれ早かれ辞めるしかない状態だったと考えていた。2年後に行われる予定の衆議院選挙が早まった場合、もはや安倍氏が首相では選挙を戦うことができない。だから、どういうタイミングで辞めるかに注目していたのだ。しかし、まさかこんなタイミングで辞めるとはわたしも予想していなかった。
また健康上の理由、というがそれならそれで然るべき説明の仕方があったはずだ。辞職するときの理由が「自分がいない方がうまく行く」とか「局面打開のため」と言っておきながら、あとになって健康を害していた、と言われても納得する人はいないだろう。健康を害しているなら首相代理を置き、「しばらく療養に専念する」と言うべきである。イザとなれば5分で駆けつけられる、というのも説得力がない。
この安倍氏の行動には、野党はもとより与党内でも批判的な意見を述べる人がほとんどだった。海外メディアでも軒並み評価は低い。例えば英フィナンシャルタイムズでは、「安倍首相が辞めた」ではなく、「首相が仕事を投げ出したために、政権担当のルーリングパーティ(自民党のこと)が混乱の極みに陥った」という見出しで紹介されていた。どう好意的に見ても否定・批判的なニュアンスしか読み取れない。タイムはブレアに次いでブッシュを支持したがための犠牲者となった、とあくまで辞意を表明した時の理由に基づいて記事を書いた。ブッシュに、トンデモない言いがかりだと後になって文句を言われるかもしれない。
いずれにしても安倍氏の辞任は、国内に対しても世界に対しても説明しにくい、極めて異常な出来事といえる。APECから帰ってきて、所信表明をして、しかし辞任したために代表質問ができない、などということがあってよいのか。こんなタイミングでの辞任などあり得るのか。この一連の流れのなかで露呈したものは、自民党と国民の間に横たわる考え方のズレであったとわたしは思う。
さらに言えば、「家業としての首相」という甘チョロイ考え方がその背景にあったのではないか。今回総裁の座を競った麻生さんや福田さんもそうだ。首相の座を狙う人々が次第に狭められてきているのは好ましいことではない。家業なら一度首相をやっておけば、自分の代の責任は果たしたことになるから、数日でも構わない。やる、ということが目的になる。
特に母親にはそうした傾向が強い。米国でもバーバラ・ブッシュ(元大統領の妻)がジョージでダメならジェブ(フロリダ州知事)でどうか、という話をしたとかしないとか、まことしやかにささやかれている。クリントン夫妻も大統領を家業と考えているふしがある。外交のプロ、という肩書きのなかに大統領の妻として同行した国などが挙げられているが、そうした「拡大解釈」には批判も出ている。
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