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「産業突然死」の時代の人生論

第88回
柏崎原発、褒めるべき点・反省すべき点

経営コンサルタント 大前 研一氏
2007年8月1日

 今年(2007年)7月16日、新潟、長野で震度6強の地震が起こった。新潟県中越沖地震である。被災家屋は8000棟を超え、まだまだ復旧には時間がかかる見通しだ。

 このニュースを注意深く見ている人なら、一つ気づくことがあると思う。「マグニチュード6.8だって? 被害の割に大型の地震ではないな」と。そう、マグニチュードだけに注目すると、この地震は日本にあっては飛びぬけて大きなものとは言えない。今回の地震の特徴は、その規模の割に被害が甚大だった点にある。

 地震の発生場所に大きな活断層があった。活断層とは、いってみれば常に地震を起こすためのエネルギーが貯えられている場所である。しかも「悪いことに」と言うべきか、その活断層の上には柏崎刈羽原子力発電所があった。同発電所もまた想定外の被害を被ったために、「使用済み燃料のプールの水が外に流れ出た、大気中に放射能が漏れた」などと、テレビや新聞のニュースで取り上げられている。わたしが見るに、あたかも原子力発電所で臨界事故が起こったかのような、危険なとらえ方をされているように感じる。

 確かに弱い放射能が外に漏れた。それは事実である。6号機では使用済み燃料プールの水が溢れ、海に流れ出た。7号機からは空気中に放射性物質が漏れた。また、地震のための故障、破損箇所が60カ所、見つかっている。しかし、だからといって、今回の事故があたかも大惨事寸前のものであったかのような報道は、本質を伝えず誤解を招くだけだ。

 わたしは原子力工学で博士号を取り、その後数年間ではあるが原子炉の設計でメシを食っていた人間である。今回の事故は専門家の立場から見ると地震に対する基本動作としては「見事、想定通り」と褒めていいほどの部類に入る。

 一方、想定外の規模の地震が起こったという貴重な経験から、従来の設計思想に欠けていた今後対処しなくてはいけない貴重な教訓も得られた。いたずらに大騒ぎするのではなく、想定外の地震に見舞われた時に、想定通り機能したことは何で、想定してなかったようなトラブルは何であったのか、またその原因は何であったのか、そうした分析を行い、それを周辺住民だけではなく、全世界の関係者と共有しなくてはならない。世界中の原子力関係者が今回の貴重な経験をもとに原子炉の安全性を一層高める努力をすることがいま求められている。

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