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「産業突然死」の時代の人生論

第85回
国民をだます国、日本

経営コンサルタント 大前 研一氏
2007年7月11日

 2004年に上梓した『考える技術』という拙著がある。このタイトルについて、わたしにこう言った人がいる。「大前さん、惜しいね。『国家が国民をだます時代になってきた』というタイトルにしたらもっと売れたのに」と。確かにその本は、そういう内容の本だった。

 非常に残念なことながら、国家が我々国民をだましてきた例は枚挙にいとまがない。最近では年金問題などが話題になった。5000万件以上もの納付記録が、だれが納めたものなのか分からなくなっている。これは国家の根幹を揺るがす大事件であろうと思うが、当の社会保険庁のウェブサイトをチェックしてみると(もちろん形式的なお詫びの文面は載っているものの)、「オマエら他人事のように考えているだろう」と言ってやりたくなる白々しさがある。また先週の当コラムでも書いたように、コムスンが介護保険の不正受給を犯した背景にはお役所の体質があるとわたしは見ている。

 安倍首相は年金のデータ整備を1年以内に“責任をもって”行うとか、いやいや3カ月前倒しで行うとか、いろいろと発表しているが、選挙対策なのだろう、口から出任せとしか思えない。わたしは大連で日本語のデータエントリーの仕事をやっているから分かるのだが、工数の見積もり、経費の見積もりなど、しっかりとしたものを出そうと思えば、今現在データがどのような状態にあるのか、なぜ40年前から内部的にはデータの遺漏が問題となっていたのか、なぜそうした認識であるにもかかわらず放置されたままになっていたのか ―― そうした原因を分析することなく、5000万人分ものデータを1年で照合完了する、と言えるのか全く不明である。

 NTTデータも自分たちでそうした作業をやるわけではないだろうし、どこかにマル投げするわけであろうから、費用が10億円だと言ってみたり、利益を除いて7億円でやりますと言ったり、全く信頼できない。恐らく、今までの通信費やシステム構築問題をつつかれないように、政治家に言われるままに“見積もり”を出しているに違いない。こうした作業の見積もりはそれほど簡単ではないし、第一、工数をはじき出すことさえも容易ではない。つまり、みな口から出任せを言っているだけで、信頼するに足りない。もしそれほど単純な問題であれば、今までに直していただろうから。国家が国民をだます時代、とはまさによく言ったものだ。

 というわけで今回は国家が国民をだますパターンを三つ挙げたい。

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