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「産業突然死」の時代の人生論

不良債権処理損失は108億円に膨らむ

 実をいうと手を引いた後に、一度だけと接触があった。それは日本債権信用銀行(日債銀)が破綻して出来たあおぞら銀行の株式が売りに出るかもしれない、というニュースが飛び込んできたからだ。これなら、銀行そのものだし、不良債権は国民が一掃してくれていたし、おまけにまだ再出発間もないころで安く買えそうだったからである。

 そのニュースというのは、あおぞら銀行の筆頭株主であったソフトバンクの孫氏が通信事業に専念するために持ち株の売却先を探している状態だというもの。あおぞら銀行の経営にはソフトバンクを筆頭にオリックスと東京海上、そして米系ファンドのサーベラスの4社が関与していた。持ち株を誰かに売るときには残る3社の合意が必要との取り決めがあったので、まずわたしはオリックスの宮内さんに話しに行った。

 しかし彼は、孫さんが売りたいというなら孫さんがその提案を持って来るべきで、それを見て判断するということであった。当時わたしの経営する大前ビジネスディベロプメントの社長はマッキンゼー時代の同僚でもあった余語邦彦(その後産業再生機構常務からカネボウ化粧品の会長を務め、現在アルゼ社長)であったが、彼を伴って孫氏と話をしに行った。「東京都が銀行設立の計画を持っている。あおぞら銀行を売る気はないか」と打診してみたのだ。

 すると、「そんないい話があるのなら、売りたい」と乗ってきたのである。そこで、すぐに石原都知事と大塚出納長に話を持っていった。だが、二人は納得しなかった。というのも、「一度国民の税金を投入して救った銀行を、もう一度東京都が買うのは二重に投資したような印象を与えてしまうから、議会に説明できない」という理由であった。

 わたしにはどうにもこの理屈が理解できなかった。そのころあおぞら銀行は売りに出されていて、米国の投資ファンド、サーベラスが買いたがっていたという状況なのである。ソフトバンクは、東京都が買ってくれるならその方が望ましいと考えていた。東京都も銀行を持ちたがっているのだから、両想いのはずである。

 都議会にはわたしが説明に行ってもいいし、またもし予算が付かないので買えないのであれば、誰かにリスクをとってもらいブリッジファイナンスで買っておき、議会の承認と予算がおりた段階で都が買うというシナリオも十分可能だ、という代案も説明した。もし東京都が買わなかったらサーベラスに持っていかれるだけだ。そうこうするうちに結局、サーベラスがあおぞら銀行を買うことになった。

 その後、わたしが手を引いてから1年くらい経ってから、わたしの提案とはまったく違う形の新銀行東京が2003年に誕生している。そしてこの銀行は“専門家”を集めて2005年の4月1日から開業している。支店を9つ持つなど、従来の銀行と変わらない姿である。その結果が、現在の経営悪化だ。

 報道によれば、2006年9月中間期の最終損益が154億円の赤字ということだ。開業当初の貸し倒れが多かったために不良債権処理損失は108億円にも膨らんだ。また民間銀行でも融資を拡大しはじめた時期でもあり、中小企業への融資はそれほど多くもならなかった。これも民間と競合するかたちで経営した結果といえるだろう。

 サーベラスはあおぞら銀行を2006年11月14日に東京証券市場に上場しその持ち分だけで上場益を5000億円は上げただろう。昨年度だけで100億円の赤字に苦しむ新銀行東京の運命と比べてみたときに「何たること!」と思うのはわたしだけではあるまい。

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