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「産業突然死」の時代の人生論

第62回
格差是正はばらまき行政につながる

経営コンサルタント 大前 研一氏
2007年1月24日

 2007年の年頭記者会見で、安倍首相は「美しい国に向かってたじろがずに一直線に進んでいく覚悟」と抱負を述べた。そのなかで内閣の最重要課題として教育改革を挙げ、問題の多い社会保険庁は解体し合理化して信頼される組織にすると強調した。

 しかしわたしは、この会見を聞いて「これだから疲れてしまうのだよ」と非常に悲しい思いにとらわれたのである。そもそも安倍首相は「美しい国」と言いつつ、何が美しいかについて言及していない。景色が美しい国にしたいのか、人が美しい国にしたいのか、街が美しい国にしたいのか、美しいマスゲームがしたいのか、わたしにはさっぱり分からない。首相本人は何が美しいのか分かって言っているのだろうか。一度彼の頭の中をのぞいてみたい衝動に駆られる。

 もう少し、細かく会見の中身を見てみよう。以下の図は、その会見の主な発言をまとめたものである。

 驚くべきは冒頭発言である。安倍首相は「昨年は美しい国づくりに向け礎を築けた」と言っている。しかし、それは本当だろうか。みなさんも「ええっ? 美しい国づくりの礎って出来たの?」と驚いたに違いない。わたしも「美しい国づくりに関する動きが何かあったろうか」と思い返してみても心当たりがない。

 首相が胸を張って述べているところを見ると、教育基本法改正のことかもしれない。だが、あの改正でも美しい国の定義はしていないのだ。それに美しい国実現のためというより、彼本人の長年の夢を強引に通しただけという程度のものではないか。もしそのことを指して「美しい国づくりの礎」と言っているのであれば、非常に甘っちょろいとしか言いようがない。やはり美しい国の定義は不明瞭なままで、実像も見えず方向性も混乱しているこの言葉を内閣のキャッチフレーズにしていてもまったく意味がない。

 さらに冒頭では、今年は「美しい国づくり元年」にしたいとも言っている。これに至っては、もう言葉そのものがおかしい。「去年、礎が築けた」とするのであれば、美しく正しい日本語の常識に基づいて考えると、「美しい国づくり元年は去年」ということになるのだ。

 
 

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