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「産業突然死」の時代の人生論

巨艦PS3で押すソニー、Wiiで新しい提案をする任天堂

 先に、NEC が今でも汎用メモリーを続けていることに対して「首脳部の経営判断ミス」という書き方をした。まこと、会社は時代を読み誤ると大変なのである。その好例が現在のゲーム業界でも見られる。

 話の転換としてはいささが強引だが、やはり時節柄この話題に触れざるを得ないだろう。ソニーのPS3と、任天堂のWiiである。

 PS3とWii、勝者はどちらになるのか。わたしが有望と見ているのはWiiだ。国内の発売日には40万台という膨大な数を用意するなど、十分な準備をして臨んでいる。それでも午前中には完売する店が相次いだ。年内には国内で100万台、全世界で400万台の売り上げを目標にしている。PS2が世界で1億台も売れたのだからWiiもそれくらい達成するのは十分可能だろう。

 Wiiの何が画期的かといって、新しいゲームの楽しみ方を提案している点が画期的だ。テレビやゲームの世界に新しい可能性を開いていく、もっと大げさに言えば人間とサイバー空間のつきあい方を大胆に変える可能性を示したのがWiiだ。Wiiは従来のゲームパッドを使った遊びではなく、自分の体を動かしながら三次元でゲームを楽しむのだ。なかには間違って操作機をテレビモニターにぶつけてしまうなどのトラブルもあるようだが、全体的には「今までにない楽しさ、面白さが体験できる」と好印象だ。わたしもこれは天才的な開発だと驚いている。

 この衝撃はiTunes とiPod が出てきたときに似ている。パソコンがビジネスやインターネットの世界にとどまっていたときに、アップルのスティーブ・ジョブズはiTunes 、そしてiPod で新たなパソコンの使い方を提案した。それがITの世界をさらに広げていったわけだ。Wiiもそれと同様である。シューティングや RPG などで足踏みしていたゲーム界に、新たなスタイルを提示して見せている。

 Wiiはユーザーからも熱い視線を浴びている。例えば動画共有サービスのYouTubeでもWiiは超人気だ。最初のきっかけは、任天堂がYouTubeで津軽三味線の吉田兄弟を使ってWiiの宣伝を始めたことだった。テレビCMと違って、YouTubeに映像を掲載するのにたいしたお金はかからない。しかし、面白くなければ誰も見向きもしないが、任天堂の映像は面白かった。Wiiを使って遊ぶ場面の映像が掲載されたのだが、なんと5分間ものあいだ、面白いから最後まで見てしまう。それが話題になってたくさんの人が閲覧した。

 今では一般のユーザーが、Wiiで遊んでいる自分、あるいは自分の子どもの様子をYouTubeに載せ始めている。こうした映像が1万5000もある。一般人が任天堂の代わりにWiiのCMを作って公開してくれているようなものだ。そういうものが次から次へとアップロードされている。ユーザーとベンダーの幸福なる結婚と言うべきか。

 これとは対照的に、壁にぶつかっているのがソニーのPS3である。年内出荷目標を従来の200万台(全世界)から変えてはいないが、欧州での出荷を2007年3月に延期した。これは部品供給に問題があって、品数がそろえられなかったからだ。だが、問題は部品供給だけではない。そもそも性能面でもそれほど優れているわけでもない。映像でいえばマイクロソフトのX-boxに劣る。いや、そういう比較をした映像がYouTubeにはあふれている。

 最悪なのは、ゲームソフトの中心がいまだにPS2であることだ。任天堂のソフトはWiiやDSに全面的にシフトしているのに対して、ソニーは最近のテレビCMを見ても「ハードのCMは最新のPS3」であるのに、「ゲームソフトのCMは従来のPS2用」という、ちぐはぐかつ悲惨な状態だ。PS3が市場にほとんど出ていないから、1億人ものユーザーがいるPS2用のソフトで宣伝をしないともうからない。今のところ日本のユーザーにはPS神話が残っていて、それゆえにPS3人気は抜群だ。しかし今後は、実際にPS3を操作したユーザーから他機種と比較したPS3の悪い点などの評価が上ってくるだろう。

 ドライブにブルーレイ・ディスクを使っていることも不安材料の一つだ。古くはエルカセットしかり、ベータ方式ビデオしかり、MDしかりで、ソニーがかかわった規格で煮え湯を飲まされた記憶は日本人のDNAにトラウマとして刻まれている。このようにPS3の方向には大いに疑問符が付く。わたしはPS3のことを、若干の皮肉をこめて第二次世界大戦末期の「戦艦大和」になぞらえている。

 戦艦大和は、当時の最先端技術と大量の資金を投入して建造された、史上最大・最強の戦艦である。しかし時代は既に空中戦に入っていたこともあり、艦隊決戦で活躍できず、その持てる能力を発揮できなかったところにこの巨艦の悲劇はあった。優れたエンジンを持つといわれるPS3もどこかそれに近いところがあるのではないか。

 むろんわたしはPS3の失敗を望むものではないが、こうなると誤った方向だと気付いたとしても、それをもう一度正しい方向にかじ取りするのは容易なことではないのだ。普通の企業ではこうした大きな過ちは犯さないものだが、成功体験があるSCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)ともなると、満塁ホームランを狙ってこのように大きなカケに出るのだろう。そうなると、トップの暴走を止める人も社内にはいない。軌道修正も遅れ、かつ大きくレールを外れてしまう。

 NEC はそうした大きなカケをしないためにジリジリと国内に閉じこめられて収益が出なくなっているケース。ソニーは社運をかけて大きなカケに出たものの、ユーザーや技術をより詳細に分析したマイクロソフトや任天堂に足下をすくわれたケース。どちらも優れた技術を社内に持つだけに、経営力の不足がここに来て露呈している。

 こういうケースは、それに染まってしまった内部の人間を登用してもうまくいかないのが通常である。内部の人間の潜在能力をフルに発揮させるために外部の人間を導入しなくてはいけない、というジレンマに陥っているのだ。これは、かつての日本企業にはあまり見られなかった「経営力不足」が招いた不幸といえる。

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