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「産業突然死」の時代の人生論

第54回
「規制だらけ」日本の教育を変えるヒント

経営コンサルタント 大前 研一氏
2006年11月15日

 全国の高校で、卒業に必要な科目を履修していないという問題が次々に判明している。受験に関係のない教科の授業を行わずに、その分を受験教科に振り替えていたということだ。既に報じられている通り、なんとこの未履修問題が起こったのは、全国で約540校にも上る。影響を受ける高校生は約5万人という規模だ。

 政府は、この問題を解決させるため、受ける授業の時間数を少なくして、生徒の負担を減らすなどの救済策を出した。この救済策で、ぶっとんだのは文部科学省(文科省)だろう。文科省は、この問題が発覚した当初から「未履修のままでは卒業させないよ。冬休みの間勉強しなさい」と指導していたはずだ。仮にこの問題が1、2校程度の学校で起こった単発的なものだったら、文科省が威張って出てきて、急に補修をやることになって決着が付いただろう。

 しかし、今回はあまりの規模の大きさに政治家が出てきてしまったのだ。そこで振り子が逆方向に、つまり文科省への非難の声が起こったのである。「なぜ文科省が干渉してくるのか」「高校は義務教育ではないのに、なぜそんなに縛るのか」「文科省や教育委員会は何をやっていたのだ」と。その声が予想以上に強かったのだ。そして結局、「今回は大目に見ます」ということで、本来必要な時間数よりも少ない授業で履修したと見なすことになった。

 だからこそ不公平感はいっそう募る。問題の高校の生徒は未履修のまま大学受験に臨むだろう。いうなれば、ズルをしたまま受験するのだ。もちろん生徒に何ら落ち度があるわけでなく、こう断じてしまうのは可哀想ではある。可哀想ではあるのだが、受験に関係ない教科もちゃんと勉強して受験を迎える高校生もいる。当然、彼らは受験科目の勉強時間が少ないわけだ。ズルした高校の生徒とズルをしていない高校の生徒が、同じように受験をする。ズルをした高校の生徒が有利なのは言うまでもないことだ。

 今回の政治家による救済策を聞いて、まじめにやっていた高校生や保護者、学校が文句を言ってくるかもしれない。だが、政治家が出てくると、往々にしてこういう決着になるものだ。

 
 

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