サイバー戦士が馬脚を現わした2005年
いや、脅威には感じなかったのだろう。でなければ今さら1000億円以上の銀行借入をして放送局を買収しようだなんてことを目論むはずはない。放送局はこれからは全てのポータルサイトと等距離になろうとするだろうし、またポータルサイトは世界中のラジオ局やテレビ局を無料で流すようになるだろう。現に全世界では2万8000局ものラジオ局が、そして850局ものテレビ局が、無料でインターネット放送をしている。テレビ局の経営者はそうした激流の中で広告収入が取れなくなり、人気のあるインターネットのシングル・テーマ・パーク(サイト)を逆に高い金を出して買収している状況である。私が思うに、今の彼が一番にしなくてはならないことは、TBS買収に使う金と人材を(主として)Google対策に注ぐことだ。ついでにいうと楽天市場に集う商店は現在1万4000くらい。国内では無論最大だが、Googleが世界中の商店と消費者とを直接相手にしていることを考えれば、あまりにも心もとない勢力である。
思いきり好意的に解釈すれば、三木谷氏は「実物」が欲しかったのだ、ということもできるかもしれない。端的にいえばそれはTBSが赤坂に所有する広大な土地だ。しかしサイバーという荒野に生きるガンマンが土地を欲しがってどうする。彼らは見えないものを追い続けているからこそ、50とか100といった高いマルチプルを得るのだ。それは「この経営者ならすごいことをやってくれるかもしれない」「もっと広大な土地を手に入れてくれるかもしれない」という期待値でもある。
ちなみに旧世界の実物経済ではどれくらいのマルチプル(PER)かというと、せいぜい8とか13くらい。だから彼らが荒野を開拓することを止めて旧世界の土地に戻ろうとした途端に、マルチプルも旧世界のそれに落ちる。三木谷氏が放送局にクリンチするとは、いってみればガンマンが敵に背中を見せたのと同じだ。ましてや、戦いの最中に自社株を換金してはいけない。隙を見せた瞬間に後ろから撃たれて終わりである。現在、彼が重症を負ってないとすれば、それは繰り返しになるが「単純に運」または日本市場のアナリストの怠慢である。
このことが分からない三木谷氏なら、「サイバー社会の寵児」などともてはやされる資格はないと私は思う。表向き西部劇のガンマンのふりをしておきながら、裏ではニューヨークの貴族(経団連のおじ様方?)と仲良しになっていたなんて、とんでもない話である。やはりマルチプル(市場の期待値)が膨れ上がり時価総額が数千億とか1兆とかいう単位になると人間はジェット機や名誉が欲しくなったりするものなのだろうか。
しかし、サイバー社会は今まさに戦いが始まったばかり。これから先、長い戦国時代が続く。ここで安堵したいなら拳銃を捨てて貴族社会に戻るしかない。ビル・ゲイツもラリー・ページやセルゲイ・ブリンも、メグ・ホイットマンも、そしてマイケル・デルでさえもまだファイティングポーズを解いていない。孫正義は社運をかけて今まさに一か八かの新たな戦闘を開始したところだ。サイバージャングルの戦いは一瞬の隙が生命を奪う。そういう戦いの場であることを日本の“サイバー寵児達”がどのくらい理解しているか? 右代表三木谷楽天社長殿、宇野USEN社長殿、あるいは藤田サイバーエージェント社長殿、などに改めて問いたい。GOOGLE(及びそれを追い落とそうとする者達)のインパクトというものは、それほど広範に及ぶと私は見ているのである。
昨2005年、三木谷氏を始めとする上記サイバー上の企業家たちは確かに日本を変えた。旧弊な価値観にゆさぶりをかけ、市民の意識を変革した。それ自体は私も大いに評価する。しかし同時に馬脚をも現わした年でもあったのだ。村上彰M&Aコンサルティング社長からニッポン放送株のバトンタッチを受けたホリエモンの記念すべき2005年2月8日の記者会見からの一年間は素晴らしいドラマに満ちた一年だったと私は考えている。
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