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「産業突然死」の時代の人生論

第169回
ダメな金融機関をつぶしてよい理由

経営コンサルタント 大前 研一氏
2009年3月25日

 今回は米国の金融関連のニュースを取り上げ、金融機関の健全なあり方を示したいと思う。

 去る3月2日、米国AIGが2008年10-12月期決算を発表した。それによると、純損失が616億5900万ドル(約6兆円)。2008年通期では992億8900万ドル(約9兆6000億円)の純損失となったことが分かった。これを受けて米国政府は、AIGに300億ドル(約2兆9000億円)の追加資本注入を発表した。この追加資本注入で米国の公的支援の総額は実に1800億ドルに達する。

 米国政府はAIGについて “ Too Big to Fail ” の構えでいる。大きすぎてつぶせない、というわけだ。AIGがつぶれたら世界中の金融機関がつぶれてしまう、だから救済しなければならない、となる。その理屈には「一定の」理解はしよう。しかし、赤字が出るたびに補てんしていたのでは際限がないのは当然のことだ。米国政府の金庫とておのずと限界はあるわけだから、どこかで救済する・しないの線引きをしなくてはならない。

 ましてAIGの損失は、前述の通り9兆円以上だ。同社の保険部門には問題がなく、金融商品部門のAIGフィナンシャル・プロダクツ(FP)が爆弾を抱えていることが分かっている。周知の通りAIGは保険会社である。世界中の銀行間の信用リスクをFPが引き受けて保険を出していたのだ。この種の保険で代表的なものが「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」である。CDSとは、債権を直接移転することなく信用リスクのみを移転する取引のことだ。貸付債権の信用リスクを保証してもらうオプション取引であり、リスクを回避するために開発された金融商品の中でも、企業の債務不履行(デフォルト)を対象にしたものだ。簡単に言うと「企業が倒産したら借金が帳消しになってしまうかもしれないことに対する保険」、これを金融商品化したものをAIGは売りまくっていたというわけだ。営業マンに支払われたボーナスは売り上げにリンクしたもので、不良品を売りつけてボーナスをもらうという雇用契約そのものに大きな問題があったことも分かっている。

 米誌TIMEの3月30日号によると、AIGFPが発行して世界中の金融機関がカウンターパート(相手方)となった約250兆円に及ぶCDS派生商品が地雷原だが、このうち今のところ30兆円近くの地雷が除去されていない。AIGの簿価は5兆円しかないので6倍近い損失を今後処理していかなくてはならない。相手方は世界の巨大金融機関だが、どういうわけかゴールドマン・サックスへの支払いが政府からの支援金の使途として優先されている。米国政府を実質的に動かしているゴールドマン出身者たちの私情があるのではないかとか、ガイトナー財務長官がNY連銀総裁のころにAIGの震源地であるFPスタッフに与えられた160億円近いボーナスを見逃したということが、今、米国世論を炎上させている。

 おそらく米国史上空前にして絶後(であってほしいと願いたい)であろうこれだけの損失を政府が救済するからには、当然果たさなくてはならないことがある。説明責任だ。最終的にはどのくらいの金額が必要となるのか、それを米国政府は米国民に説明しなければならないはずである。公的資金、すなわち米国民の税金を用いて救済に当たるのだから当然のことだ。銀行の不良債権購入と異なり、AIGの救済に投入された税金は返ってこない。そのまま別な金融機関への支払いに回ってしまうからである。歯止めが利かないままずるずると支援を続け、米国民に対して最終的な見通しについて説明をしないというのは間違っている。

 AIG以外の米国金融機関を見てみると、「案の定」というべきか軒並み芳しくない。米国シティバンクは、既報の通り米国政府が丸抱えすることになった。メリルリンチを吸収した勝ち組のはずのバンク・オブ・アメリカも病気が再発した様子で株価下落がとまらない。あとはファニーメイやフレディマックの問題が残っている。

 ファニーメイやフレディマックは500兆円もの「米国債に準ずる金融商品(GSE)」を世界中にばらまいた金融機関だ。さすがにこれだけの巨額ともなると、今後の住宅価格の推移によってはいかに米国政府といえども救済は不能である。というより、「そもそも、これらを救済してみたところでどんな意味があるのか」とわたしは思う。いっそのことAIGも含めて一回つぶしてしまえばよいのではないか(その理由については後述しよう)。

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