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「産業突然死」の時代の人生論

優れた景気対策が岡山県にあった

 耐久消費財の浸透した先進国では、エンゲル係数が低く生活必需品以外の消費は心理で大きく伸び縮みする。自動車でもテレビ・冷蔵庫でも、パソコンでさえも、今持っているものをしばらく使い続けようという心理と、いい製品が出たのでそろそろ買い替えようという心理は紙一重である。両者に実質的な違いはなく、目的(移動、通信、食事など)の基本的欲求を我慢しているわけではない。GDPの60%を占める個人消費の大半がこうした費目で構成されているということが、景気対策、経済対策の中心になくてはならない。過去および現在の景気対策がすべて公共工事主体で空振りに終わっているのはこの基本的な認識に誤りがあったからである。

 台湾で商品券が配られてかなり効果が上がったと伝えられているが、コツは政府・マスコミ一体で明るい雰囲気を醸成すること、物を買う場合にしか使えないことだ。このほか、中途半端なチケットを複数枚まくこと(例えば2000円5枚、500円6枚という具合)、お釣りは出ないこと、期日までに使わなければ無効になること――などを工夫すれば、ばらまいた金券以上の効果がある。また岡山県総社市(そうじゃし)が不況にあえぐ部品会社を救済するために地元水島市の三菱自動車のクルマを買えば10万円あげます、とやったところ、希望者が殺到したという。つまり上記の心理をうまく突いたら、この機会に買い替えをしてしまった方が得だという人々が募集数200人を超えるくらいいた、ということである。10万円のインセンティブがなければ恐らく来年まで待とう、という心理であったに違いない。

 麻生首相が推進した定額給付金は、台湾の経験も総社市の経験も生かしていない無駄金になる可能性が高い。かつて日本でも故郷振興とかいろいろな名目でお金やクーポン券を配ったが、効果は当初0.3(まいた金の30%しか市場に出てこない)、そして時間が経つにつれて0.1%(年間のGDP浮揚効果は0.1%くらいにしかならない)というのが経験値である。つまり必要不可欠のモノを買うために、その分が後々、自分の財布から出ていくことは極めて少ないということだ。

 一方、2兆円あれば、総社市方式はさらに大規模にできる。車を買い替える人に思い切ってすべての下取りを50万円でやります、とすれば、残存価値0円のものを持ち込まれたとしても、400万台の古いクルマの買い替え需要が一気に発生する。盆と正月が一緒に来たようになる。もちろん自動車産業だけではなく、これを冷蔵庫やテレビに、あるいは古い住宅の建て替えに使ってもよい。金を出したくなかったら、取得税、重量税などを今年いっぱいは免除、とやればいい。今、長野自動車道ではいち早く一律1000円の通行料にしているが、週末の更埴インター付近は10数年ぶりに渋滞が戻ってきている。お金のない人にばらまいても景気はよくならない。使ってくれる人、使う余裕のある人の背中をポンと押す動機をつけるために金を使う。これが、わたしが主張してきた景気対策であり、「心理経済学(講談社)」の要諦(ようてい)である。

 古い経済学では金利を下げてマネーサプライを潤沢にするという手法しかない。ケインズ経済学では公的部門が有効需要を創出して雇用を増やし、その結果消費が伸びるという間接的なやり方を説く。しかし、成熟経済が金融危機に陥っている場合には、これでは全く効果がない。米国も日本と同じ轍を踏み、全く効果がないと思われる需要と雇用の創出策に70兆円近い予算を通した。残念ながらうまくいかないだろう。雇用というのは結果であって、目的にしてはいけない。雇用創出を目的とした政策で、先進国で継続的な効果が認められた事例はない。

 先進国ではGDPが下がっても人々は蓄えと余裕を持っているので、不況が過ぎ去るのを身構えてじっと待つだけである。そのじっと待っている状況をさらにフリーズさせるような記事ばかり書く新聞や、不況対策を選挙対策にするため、それを正当化するニュースばかり流す政治家が、事態を一層深刻にしているのである。いまこそ世界一の貯蓄大国日本は総社市に教えられて、わたしが長年唱えてきた「心理経済学」に大きくかじを切ってもらいたい。

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