バックナンバー一覧▼

「産業突然死」の時代の人生論

破綻したアイスランドを誰が救済するのか

 アイスランドのシグルザルドッティル新首相は、経済破綻を招いたと批判されるオッドソン中央銀行総裁の辞任を要求したが、これを受けて同総裁は2月9日、辞任を拒否した。同総裁は「わたしの仕事に実質的な過ちはなかった」と述べている。金融危機の影響によって同国の通貨クローナが対ドルで80%以上暴落したことから、国内世論はEU加盟・ユーロ導入へと大きく流れを変えており、4月の総選挙に向けて政府のかじ取りは予断を許さない状況だ。

 アイスランドは実質的に国が破綻したわけであり、これは誰かが救済しなければ再建は無理だろう。ちなみに同国の人口は30万人程度。この規模は日本で言えば神奈川県平塚市ぐらいである。1990年代後半からはアルミニウム精錬など工業生産も行われるようになったが、主要産業は漁業だ。にもかかわらず国民一人当たりのGDPは2007年で3万8751ドルと世界でも指折りの高さである。

 なぜそれが実現したかと言えば、それはひとえに銀行の力によるものなのだ。中央銀行が高い金利を設定し、その傘下の銀行が世界中からお金を集め、それによって住宅投資や建設投資を行い、アイスランドは繁栄を謳歌(おうか)していたのである。世界からお金を借りてこられるようにするのが中央銀行の役割であり、それが同国の経済を支えていたわけだ。英国やドイツの個人はインターネットでアイスランドの銀行に定期預金し、その高い金利を享受していた。

 今回、米国発の金融危機がトリガーとなり、心配した預金者が一斉に資金を引き揚げたわけだ。米国のワシントン・ミューチュアルで起こったのと同じ「サイバー取り付け騒動」がアイスランドを襲ったのである(ワシントン・ミューチュアルの「サイバー取り付け騒動」については『緊急提言:ポールソン案は額不足、手順も誤り』『緊急提言2:最初にやるべきことを最初に』を参照)。当然銀行は手元資金がないので瞬時に出血多量で死んでしまった。同時に市場を閉鎖してさらにパニックが広がった、という状況である。ボーダレス社会では国家も一瞬にして沈む、ということを我々は目撃した。

 GDPに占める割合が、基幹産業よりも金融のほうが高いという弱点が露呈した今となっては、復興は容易ではない。人口も少ない小国が金融立国になってしまい、産業が萎縮したツケが回ってきているわけだ。世界からお金を借りてくるというのが国策であったような経済のあり方に見直しを迫られるときが、今、同国に訪れている。漁業に立ち戻り、根気強くやり直しを図る必要があるだろう。

 同国のダメージがどのくらい大きかったか、下の図を見ていただきたい。2008年初からの、新興国通貨の騰落率をグラフにしたものである。

新興国通過の年初来騰落率(08/1/1/~09/2/13、対ドル騰落率、%)

 現在、米ドルに対して強いのは唯一日本円だけである。今回の金融危機の影響で新興国も軒並みダメージを受けているが、米ドルに対して83%も価値を下げてしまったアイスランドクローナは、群を抜いていると言うか、端的に「異常」である。この状態では、世界から借りてきたお金を返済しようにも自国通貨の価値が低すぎてどこへも返せない。先に「実質的に国が破綻した」と書いたのはこういう状態であるからだ。

 先には「誰かが救済しなければ」とも書いたが、では誰がアイスランドを救済するのか。わたしは、日本がやってみてもいいだろうと思っている。例えば三菱東京UFJ銀行など、モルガン・スタンレーに出資するくらいならアイスランドを救済してみたらよいのではないか。なにせ地方の中核都市一つを救済する程度の規模なのだから、たいした負担ではない。

 まして現在、日本円は世界一強いのだ。救済すれば、北極圏に日本と大変良好な関係を持つ「火山と温泉の国」ができあがることになる。アイスランドは地理的に米国と欧州の中間に位置し、欧州とはかかわりが深い。日本にとって貴重な海産物が安定供給される。北方四島を返還してもらったとして、その時にかかる費用の何分の一かで、大の親日国家が誕生する。金融危機で身構えているばかりではなく、豊富な手元資金を持つ日本が史上最強となった円を使ってできることは多い。資源や穀物メジャーの買収はもとより、日本にとって必要な食糧や資源・エネルギーを獲得する千載一遇の機会でもあるのだ。

■コラム中の図表は作成元であるBBT総合研究所(BBT総研)の許諾を得て掲載しております
■図表、文章等の無断転載を禁じます
■コラム中の図表及び記載されている各種データは、BBT総研が信頼できると判断した各種情報源から入手したものですが、BBT総研がそれらのデータの正確性、完全性を保証するものではありません
■コラム中に掲載された見解、予測等は資料作成時点の判断であり、今後予告なしに変更されることがあります
■【図表・データに関する問合せ】 BBT総合研究所, e-mail: bbtri@bbt757.com

あなたのご意見をコメントやトラックバックでお寄せください

SAFETY JAPAN メール

日経BP社の書籍購入や雑誌の定期購読は、便利な日経BP書店で。オンラインで24時間承っています。