中国から雇用を取り戻せるのか
ガイトナー氏は、先の上院財政委員会の質問への回答で「オバマ大統領は中国の為替慣行を変えるため、すべての外交手段を積極的に活用することを約束した」とも表明している。これもまた、両氏とも「中国は為替操作国であって、速やかに為替相場の調整を図る必要がある」という共通認識を持っている証左といっていい。思い起こせば日本もまた80年代には同じような理屈でアメリカに攻めまくられ、85年のプラザ合意へと追い込まれた。過度の円高からバブルへ、そしてバブル崩壊へとつながったプラザ合意が、日本経済の衰退の始まりであったことを忘れてはならない。
貿易相手国に対する米国政府のこうした攻撃は非常に浅薄な認識である。仮に人民元が強く(高く)なっても、かつて米国にあった生産拠点はベトナム、あるいは東欧などに行けばいいだけであり、米国に戻ってくることはない。多くの米国の経営者と長年仕事をしているが、通貨が一時的に下がったからといって米国に生産を戻そうなどと考える人に遭遇したことがない。オバマ氏は「中国から米国に雇用を戻す」と選挙期間中から言っていたので、これが今、彼の思考に強く出ている。今、中国に米国債を投げ売りされたら非常に困るということが分かっておらず、思考のバランスが取れていないのだ。オバマ氏はさまざまな政策課題の中で、雇用問題の解決・雇用創出をあまりにも最優先に考えすぎている。だから世界経済・金融についての認識が甘くなる。
また、もし中国が自国の為替相場を固定相場制からフロート(変動相場制)にしたら、人民元は彼らが期待しているように強くなるのではなく、逆に弱くなるだろう。かつて日本の円やドイツのマルクは、確かに強くなった。だが、今の中国経済は脆弱性を増している。米国向けの輸出が急減するなど、この金融危機の中、大変厳しい状況にあるのだ。こうした状況で為替をフロートにしたら、いったんは高くなるものの、アービトラージャー(サヤ取り業者)が中国の経済矛盾を突いて売り浴びせ、その後、元は急速に落下するというのがわたしの分析である。なぜなら、元を人為的に維持してきたおかげで、人件費は既にタイやルーマニアの倍くらいとなっており、ベトナムの3倍くらいである。私も大連で会社を経営しているが、正直、元は相当下げないと従来のような競争力は回復しない。その意味でも、オバマ政権の経済認識は数年前のものであり、相当危ういと言わざるを得ない。
日本と中国の米国債保有残高の推移を見てみると、日本は伝統的に世界一の保有残高であったが、中国は2008年9月から米国債を大きく買い増ししている(前ページの図を参照)。これは米国に対する発言力を増そうという胡錦濤氏の政策の一環である。こういう状況下でのオバマ氏の認識のおかしさや、ガイトナー氏の発言は、米国経済の立て直しや今回の金融危機の解決にさらに大量の米国債を発行するという自らの政策に水を差すようなものである。
今、世界の経済状況は急激に変わっている。中国だけでなく、ほとんど全世界の国が途方に暮れている。ロシアやウクライナのように銀行が一部閉鎖してしまっているところもある。比較的安定しているのは日本くらいのものであるが、残念ながら政権移行期にあるらしく、政権末期の症状を示しており、世界の諸問題の解決に助っ人として出かけていく様子もない。
米国に山積している政策課題はブッシュ政権の「負の遺産」ともいえるだろう。だが、これらの解決にあたっては正しい現状把握・経済認識がなされていないばかりか、前政権の閣僚の発言がオバマ氏の足を引っ張りかねない状況である。真の意味で早急に処理すべき「負の遺産」はいったい何なのか、オバマ氏が見極めるために許されている猶予はそう長くはない。
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