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「産業突然死」の時代の人生論

第158回
金融大地震に世界がやるべきこと、日本ができること(1)

経営コンサルタント 大前 研一氏
2009年1月7日

 わたしは全国の経営者を対象にした「向研会」という勉強会を主宰している。この会ではもう10年以上にわたって毎月一回、経営の世界で起こっていることに関してテーマを決めてわたしが話をするのだが、毎年12月はその年の経済・経営を振り返りながら来年の世界の経済状況の見通しを述べるのが習わしだ。わたしなりの分析を提供し、もって皆さんの経営のお役に立てていただこう、という狙いである。自分で言うのも口はばったいが、これはメンバーには大変な好評をもって迎えられている。

 今回(昨年12月)の勉強会を準備するにあたっては、わたしもいささか頭を抱える仕儀となった。なにしろ「見通す」ことが難しいのである。理由は言うまでもない、例の世界的金融危機だ。昨年9月以降のダウ工業株30種平均株価の推移を見ると、市場は世界的金融危機に大きく動揺していることがはっきりと分かる。それはまさに「激震」と呼ぶにふさわしいもので、年が明けた現在でも簡単には収まりそうにない模様だ。これがノイズとなって正確な判断を妨げるのである。

 さて、この度の世界的金融危機は、米国のサブプライムショックに端を発しているというのが衆目の一致するところだ。この問題が発覚したのが2007年の8月ごろ。つまりこれが最初の大地震だ。サブプライムという「震源」は想像以上に深くまた強大で、その後も世界は幾度となく余震を経験した。昨年(2008年)の9月にはリーマン・ブラザーズの破綻という新たな大地震が発生し、以降も市場は度重なる余震に見まわれている。

 いや、下記のグラフ(右)を見ていただけば分かるように、いまだに本震の真っ最中、と見ることもできる。かつては一日当たりのダウ株価の上下が数百ドル、などというのはまさにまれな出来事であったが、この4カ月ではほぼ毎日のように数百ドル上がったり下がったりしている。地震波と同じような動きは市場の動揺を見事に表しており、どちらに向かっているのか分からない、小さな指標や政策の発表に一喜一憂している状況が見て取れる。市場が動揺しており、市場関係者が全く自信をなくし、方向感覚が失われている、と言ってもよい。

2008年1月以降のダウ工業株30種平均株価の推移

 このような中で来年を見通すということは無謀なことだ。後述するようにまだ本震をさらに大きくするような幾つかの活断層を抱えているし、それらが余震程度で済むのか、今でも十分に悪い状況をさらに悪くするのか、現時点では判断できないからである。また多くは米国自身がどのような政策を採るかに依存しているが、運悪く米国では4年ごとの政権交代という最悪のタイミングとなっている。

 こうした世界的金融危機に当たって、米国は「日本の轍は踏まない」と言っている。例えばそれは、オバマ政権で財務長官に指名されたニューヨーク連銀総裁のティモシー・ガイトナー氏だ。彼は1989年には日本の米国大使館にいて、経済アタッシェ(経済や軍事などの専門分野を研究・調査する職員)を勤めていた経験があるキャリア官僚だ。日本のバブル崩壊も目の当たりにしている。だからその発言には重みがある‥‥と思いきや、先ごろはゼロ金利政策を打ち出し、さらに市場から社債や国債の買いオペを通じて資金供給を潤沢にする方針を打ち出している。それはまさに、日本の金融危機の際、日銀が35兆円ほど注入した(ピーク時)ことと同じ道だ。

 80年代の日本は都市銀行が12あった。それが今日、最終的には3行となった。それは米国もまた同じだ。いまや米国の有力銀行は、J・P・モルガン、バンク・オブ・アメリカ、ワコビアを買収したウェルズ・ファーゴの3行に収れんしつつある。“シティ”バンクはもはや“ナショナル”バンクとなるしか活路がない状況だ。「轍は踏まない」どころか「踏みまくっている」のである。それもきわめて忠実に、だ。

 米国は長いトンネルに入ってしまったな、という感は否めない。オバマのキャビネットを見る限り日本との唯一の違いは日本では5~6年かかったこうした政策が数カ月で矢継ぎ早に繰り出されているところだ。しかしそれが吉と出るのか凶と出るのかは今のところ予断を許さない。

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