第155回
オバマが目指す米国とロシアの動き
経営コンサルタント 大前 研一氏
2008年11月19日
米国大統領選挙が今年(2008年)11月4日に行われた。皆さんもご承知のように「チェンジ(変化)」を掲げた民主党のバラク・オバマ上院議員が当選した。記念すべき米国建国史上初の黒人大統領の誕生である。大統領選と同時に行われた連邦議会の上下両院選でもオバマ氏当選の相乗効果で民主党が躍進、上院・下院ともに過半数を大きく上回った。つまりある意味では、共和党政権の継続を図ったジョン・マケイン上院議員は二重に敗北したわけだ。
わたしは以前から、米国の国民性を考えればオバマ氏が大統領になるだろうと予測していた。理由は簡単なことだ。いま米国は停滞ムードである。経済的にはごく低調で、厭戦(えんせん)的な気分になっている。こういう時、米国民は変化を求める。ケネディ元大統領、クリントン元大統領もちょうど同じような局面で選ばれた。オバマ氏も含め、3人とも大統領選以前は有名とは言い難い存在だった。演説一つで民主党の指名を受け、大統領にまでなった点も今回と似ている。
米国民は、オバマ氏のように「未知の部分がありながらも、強力なリーダーシップの素質を持った47歳の男」に賭けてみようと考える傾向を持っているのだ。
また、今回の大統領選では、共和党のマケイン氏側にも戦略的な問題があった。アラスカ州知事・ペイリン氏を副大統領候補として任命したときには、彼女の美貌(びぼう)や経歴、新鮮さなどで支持率がアップしたものの、しょせんは一時的なものだった。
結局は彼女の実物大の姿が明らかになるにつれ、ペイリン効果は逆方向に働いた。ペイリン氏の見識(アフリカを大陸ではなく国名だと思っていた、ロシアは“隣り”なのでよく知っている、NAFTAを知らなかった、など)、過去の振る舞い(州知事時代の職権乱用疑惑など)、家庭の事情(モラリスティックな保守派を自認する割に本人は駆け落ちで結婚している、娘は17歳でできちゃった結婚、など)が赤裸々に暴露された結果、マケイン氏の足を大きく引っ張ったことになったのだ。
選挙に「たら・れば」は禁物だが、彼女を副大統領候補にしなかったら、また違った状況になったかもしれない。共和党にとっては経済が悪化の一途をたどるなか、経済にも外交にも疎いペイリン氏の存在が72歳と高齢のマケイン候補にとって最終的には非常に大きな負担になってしまった。
以上のことを勘案すれば、米国民の「変化」に期待する部分や、本能的に未知のものに賭けてみようとする意識が歴史的な転換点を生み出した、と考えるべきだろう。特に40年間、米国を内外から見てきたわたしとしては、民主党大会で大統領候補の指名を受けた受託演説を聴いた後は一層その思いを強くした。一言でいえば「上手かった」のである。米国人の常識に照らし合わせれば、あの時点でオバマ氏が落選することは考えられない、とわたしは思ったのである。
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