第154回
ユーロ下落の陰にヘッジファンドの暗躍
経営コンサルタント 大前 研一氏
2008年11月12日
世界が金融危機に巻き込まれ、各国の通貨が弱まっているなかで、ひとり日本円だけが高値傾向を示している。これは、世界の株式相場が急落したことから投資家がリスク資産の圧縮に動き、その結果として円買い・ドル売りに向かったためである。同様のことはユーロでも起きた。円はユーロに対しても高くなってきた。それもドルを上回るほど急激に、である。
まずは以下の対ドル・対ユーロでの円の推移を示したグラフを見ていただきたい。赤がユーロ、青が米ドルに対する円の上昇・下降を示している。
上図をみれば明らかなようにドル(青色)については、ここ10年くらいの間、上がったり下がったりを繰り返している。これはまあ、「いつものこと」だ。一方ユーロは、1999年にスタートしてしばらくは弱い状態(円高・ユーロ安)が続いた。だが、2001年あたりからは状況は一転、徐々に円安・ユーロ高へと向かった。この傾向は2008年の初頭まで続いた。それが最近になって急に円高にシフトし、今ではユーロ発足時のレベルに落ちてしまった。過去一年くらいの間は1ユーロは165円くらいだったのが、現在では125~120円程度と、劇的にユーロの力は落ちてきたのである。
さていったい何が起こっているのか。見逃してはいけないポイントは、ユーロが落ちている理由が実体経済にはなかったということだ。10月末の1週間くらいの動きを見ていると、ヘッジファンドがユーロを空売りしていたことが分かってきている。この原稿の冒頭で「投資家がリスク資産の圧縮に動いた」ことを挙げたが、ユーロ下落の理由はそれだけではなかったのである。
空売りとは、通常の取引の逆である。通常の取引なら「安いときに買って、高くなってから売る」。空売りはその反対に「高いときに売って、安くなってから買う」もので、市場に不安があるときによく使われる手だ。ヘッジファンドのようなプロは、何倍もの倍率で空売り(すなわち売り浴びせ)を仕掛けて価格を暴落させ決済日が来たら安くなった市場から現物を買って売却先に先の値段で買い取らせる。その鞘を抜くのがショートといわれる手法である。
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