バックナンバー一覧▼

「産業突然死」の時代の人生論

 おそらく英国で今起きているのは、このサイバー取り付け騒ぎである。人々は預金をアイルランドの銀行へ、あるいはノーザン・ロック(※)へ移そうとしている。耳を疑いたくなるような事態だが、BBCによれば、ノーザン・ロックは目下国有化されているため、安全な避難所なのだそうだ。

※ 英国の銀行、ノーザン・ロックは、2007年9月、サブプライムローン問題により資金繰りが悪化し、イングランド銀行に支援を要請したことから、預金払い戻しなどを求める客が殺到した経緯がある。今は国有化されている。

 10月4日に開かれた欧州4カ国による首脳会議では、ドイツのメルケル首相が欧州連合(EU)全体としての救済策に難色を示し、全額預金者保護を打ち出したアイルランドを自己中心的だと批判した。ところがその翌日にはひょう変し、不動産金融大手ハイポ・リアルエステートの救済を決めたのみならず、ドイツ国内の銀行の個人預金を全額保護すると発表している(※)。

※ 欧州ではアイルランド、ドイツのほかギリシァなど6カ国が全額保護を打ち出しており、フランスも検討に入った(10月9日時点)

 サイバーパニックは、中性子爆弾のようなものだ。町中で騒ぎが起きるわけではないが、多くの銀行を、数年どころか、たった数日で死に追いやってしまう。

 パニック心理が欧州全体に広がった今となっては、流動性を供給する国際的な仕組み、言わば「緊急看護室」を整備することが焦眉の急である。そこに用意する資金は、すぐに底をつくのではないかと思われないよう、十分な額が必要だ。米国がやることは直ちに世界各国に影響をおよぼすのだから、米国にだけ対策を任すべきではない。

 例えば日本は、少なくとも政府と民間それぞれ50兆円規模、合計では100兆円を超える米国債を保有していると推計される(※)。もしも米国が救済措置の名目でドルを乱発したら、米国債の価値は下落する。このことは米国政府にはっきりと認識してもらわなければ困る。米国はドル増刷という奥の手を使わず、事態に正面から取り組むべきだ。なぜなら米国債の45%前後、つまりはドルの45%前後は、外国人が保有しているからである。ドルの価値すなわち米国債の価値が下がれば、富裕国が保有する資産は深刻な打撃を被る。したがって「持てる国」は、米国がドルを刷って事態収拾を図るのを傍観していてはいけない。それよりも、流動性の供給に手を貸す方がはるかに得策である。

※ お詫びと訂正:当初、「米国債6兆ドルを保有している」としましたが、この数字は誤りでした。お詫びして訂正いたします

 となれば米国は、外交政策を根底から見直す必要がある。ブッシュ・ドクトリンの基本はテロとの戦いだが、今世界が戦っているのは「ウォール街発の金融テロ」であるように思われる。経済と金融の平和を取り戻す新しい枠組みを作るためには、米国は中国、台湾のみならず、ロシアやアラブ産油国との関係修復に努めるべきだ。わたしが提案する流動性ファシリティーの実現には、これらの国々の協力が不可欠である。

 米大統領候補はマケイン、オバマ、どちらも経済や市場にはあまり詳しくないようだ。だがこれは、米国にとっても世界の他の国々にとっても、現時点における最重要課題である。米国が経済に明るい指導者を迎えられないなら、今こそ欧州をはじめとする各国がかじ取りを引き受け、流動性を供給するガソリンスタンドを構築してタンクに10兆ドルを準備しなければいけない。オオカミの群は次の犠牲者を探し始めている。そしてそれは、群の中でいちばん弱い仲間だということを忘れてはいけない。

あなたのご意見をコメントやトラックバックでお寄せください

SAFETY JAPAN メール

日経BP社の書籍購入や雑誌の定期購読は、便利な日経BP書店で。オンラインで24時間承っています。