第3の原則
事態が収束したら再発を防ぐための世界共通の制度を構築する
混乱が収まり、先行きがいくらか明るくなってきたら、二度とこのような危機を招かないよう、協力して制度作りに当たらなければならない。何をすべきかは網羅的ではないものの、現時点でもいくつか思い浮かぶので書き出しておこう。
まず何よりもやらなければならないのは、債権などの証券化に一定のガイドラインを設けることだ。サブプライムローンをプライムローンに混ぜ込んで「安全な金融商品(CDO)」として売ることに対して、これまでは寛容でありすぎた。おまけに無責任な保険会社がこの手の商品を保証するものだから、いかにも安全そうにみえた――少なくとも、この保険会社が破綻するまでは。さらに格付け機関が乗り出してきて、細切れのローンをこね合わせた代物にトリプルAすなわち最優良の格付けを与えた。こうして折り紙付きとなった「ミンチ商品」が世界中に輸出されたのである。フレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)やファニーメイ(連邦住宅抵当公社)が発行する債券もまるで国債のような格付けだし、リーマンの債券もそうだった。今必要なのは、格付けや証券化商品の成分表示に厳格な基準を確立することである。工業製品には米国材料試験協会(ASTM)が厳格な基準を設けているが、金融商品についても、国際的に認められるような厳格な基準が必要である。
なお住宅ローンについては、住宅価格は永遠に上がるといった楽天的すぎる仮定で担保契約を結ぶのをやめなければいけない。最低でも不動産の現在価値に対して掛け目を80%とする古き良き慣行を、今も守るべきだ。
またIMFが今回の危機に介入しないつもりなら、先ほど述べた緊急避難用のガソリンスタンドをより恒久的な形で制度化することも考えていいだろう。
危機が収まり金融システムが機能するようになったら、金融取引慣行の見直しも必要である。9月には、空売りを浴びせられた一部の金融機関が致命的な打撃を被った。だがわたしが提案する流動性ファシリティーが整備されれば、空売りの圧力におびえなくても済むはずだ。
もう一つ、公的な金融機関に務める人々の報酬基準を確立する必要がある。現在はほとんどのエグゼクティブやトレーダーが(その年の)取引に応じて成功報酬を受け取っている。となれば、うまくいかなくなったとき責任を負わなくてよいのかという一般市民の怒りや嫉妬は根拠なしとしない。粗悪債権でも売りまくってしまえばそれに比例した報償がもらえる、というのでは誰も納得しない。ただ、これが金融業界特有の慣行なのか、米国特有の現象なのかははっきりしない。ちなみに日本の場合には、リーマンやモルガンなどの支社を除けば、金融機関と一般製造業との間に(米国で見られる100倍近い)顕著な給与格差はない。
最後に、世界各国は外貨準備にせよ貯蓄にせよ、現実にドルに依存しているという事実をよく認識しなければならない。このことは、ドルそのものやドル建て国債の信認低下を食い止める要因として作用している。これは、一度はうまく効くだろう。だが二度までは望めない。今回の危機が収束したら、米国の金融機関の経営状態に左右されないよう、各国が外貨準備の構成を早急に見直すことは間違いないからだ。
だから世界がまだドルに依存しているうちに、米国は何よりもまず、「持てる国」による流動性ファシリティーの整備を訴えなければならない。経営危機に陥った金融機関を一つずつ処理するポールソン流のやり方で不要な犠牲を出すことは避けるべきだ。
一方、米議会は、一般受けをねらった反対論を展開すべきではない。国民の怒りと不安には第3期で取り組むことにして、その前に控える第2期の難題をクリアしなければならない。例えばシティコープなどは、ヴィックラム・パンディット会長自身の発言によれば、Level3(流動性のほとんどない)資産4000億ドルを今後数年の間に売却する必要に迫られているという。同行の既に傷んだバランスシートがこれでどうなるのか、現時点では想像もつかない。したがって流動性危機にひんする第1期同様、不良債権処理が始まる第2期でも十分な注意が必要である。
以上をまとめると、こうなる。米国の現在のアプローチでは、第1期での流動性の供給が不十分である。金融機関の破綻に個別に対処してむしろ疑心暗鬼を加速している。ポールソン案は緊急に必要というふれこみだが、実際には第2期の部分的な解決にしかならない。そして議会は、タイミングを誤ったポールソン案に対して、第3期で行うべき(甘味料をばらまく)選挙対策向けの議論ばかりをしている。
高いものについた日本の教訓、そして危機の申し子である(日本の)尊大なメガバンクと付き合わざるを得ない不幸を知る者として、わたしはこうアドバイスしたい。それはたった一言、三つの段階それぞれにすべきことを一度にやってはいけない、ということである。それでは解決が長引き、米国民、ひいては世界に多大な犠牲を払わせることになる。米国の指導者から正しいメッセージが発信されるなら、世界各国は痛みの伴う負担を分かち合うだろう。なぜなら多くの国の成長と繁栄も、そこにかかっているからだ。
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