この状況で米国がすべきなのは、世界各国に協力を求めて5兆ドル規模の信用供与枠を設け、必要な流動性を確保することである。こうすれば危機にひんした金融機関が利用し、攻撃や破綻の不安なしに傷んだ資産を回復することができる。スウェーデンが90年代初期の金融危機の際にとった「緊急看護室」と呼ばれる措置と似ているが、流動性の枯渇に対する不安を払拭する必要があるため、規模は今回の方がはるかに大きい。欧州をはじめ主要国のどの銀行・金融機関でも利用できるようにするなら、10兆ドル程度まで枠を拡大する。
このような大規模な信用供与枠を設けるに当たっては、条件を二つ守らなければいけない。第一は、現在の不安と緊張を十分和らげるのに十分な額を準備すること。第二は、そのために米政府が紙幣を増刷してはならないことである。
米ドル札は、既に多すぎるほど刷られて世界中にばらまかれている。ポールソン財務長官のやり方で問題と思われる点の一つは、あらゆることを国内の資源でまかなおうとしていることだ。米国は、7000億ドルの救済案を練り上げる前からあれこれ約束手形を連発しており、それがゆくゆくはドルや米国債の価値を損ないかねない。世界中の国がその不安に悩まされている。
1997~98年に起きた韓国の金融危機の際は、国際通貨基金(IMF)が介入し、米系銀行の過剰融資を肩代わりした。今のところIMFは、ときたま不良債権の額を予想する程度で、高みの見物をしているだけで介入する兆しはみられない(ちなみにストロスカーンIMF専務理事によると不良債権の総額は1兆3000億ドルだが、今後もっと膨らみそうだ)。米国にしてみれば、IMFは欧州寄りで煙たい存在だろう。それはともかく、IMFが動かないなら、今がグローバル版「ガソリンスタンド」の新たな構築を訴える好機である。金融機関はそこに立ち寄って無制限に流動性の注入を受け、当座をしのぐ間に資産を正常な状態に復旧する。資金が足りなくなるのではないかという不安から起こるパニックを抑え込んだ状態で銀行は粛々と資産査定・処理をして健全部分の再生を確実にすればよい。
ガソリンスタンドには、先ほど書いたように、5兆ドル程度は用意する必要がある。すぐに底をつくのではないかと思われるような規模ではだめだ。5兆ドルというと途方もない額だと思われるかもしれないが、日本の経験からすると、タンクは十分に大きくなければいけない。底の浅いタンクは不安をあおるだけであり、日本政府も結局は次第に大きくしなければならなかった。最終的に日本国民は、公的資金の注入やゼロ金利政策による逸失金利の形で、3兆ドル(300兆円)を負担している。1993年に日本で不動産バブルの崩壊が始まったころ、わたしは2兆ドル程度が必要と見積もっていたが、日本政府(当時武村正義大蔵大臣)が不良資産として白状していた額はわずか1300億ドル(13兆円)だけだった。しかし15年後になって福井俊彦元日銀総裁は、国民の負担が実際には3兆ドルに達したことを認めている(※)。
※:平成19年5月25日決算行政監視委員会。このときの証言では、逸失金利だけで200兆~300兆円と述べている。
わたしは米国が必要とする流動性ファシリティーの規模を計算する立場にはないけれども、こうした経緯から、日本より少ない額ではいずれ暗礁に乗り上げることは必至だと指摘しておきたい。準備する額は5兆ドルから10兆ドルが適切であり、欧州など米国以外の金融機関の利用も考えるなら、上限に近い額(10兆ドル)が望ましい。
これほどの額を用意するとなれば、米国は慈悲心にすがるしかない。それも自国の納税者にとどまらず、ドル建て資産を保有する世界の国々に訴えるべきである。米国が金融危機を収束させられない場合も、ドルを野放図に乱発した場合も、世界は大いに困る。米国は過去にたっぷりドルを刷り、現金とドル建て証券(米国債=USGS)を世界中にまき散らしてきたのだから、もうこれ以上は刷らず、既に世界に出回っているものでまかなわなければいけない。
中国は貿易黒字のおかげで1.5兆ドルの外貨準備があり、そのほとんどが米ドルである。日本も、差し迫って必要としない1兆ドルほどを供出できるはずだ。台湾とロシアは0.5兆ドルずつ、石油で裕福な中東諸国なら2兆ドルは堅い。欧州の金融機関も枠を利用できると請け合えば、欧州連合(EU)にも合計で2兆ドルはお願いできるだろう。これで既に7.5兆ドルになる。さらに米国が2兆ドル足せば、先ほどの上限、すなわち10兆ドルにほぼ到達する。
この資金はそっくりなくなってしまうわけではない。3%程度の金利をとってよいだろう。また期間は3~5年とし、その間に銀行の“good bank”部分が健全化されれば、用立てした全額が戻ってくることも期待できる。
こうした流動性ファシリティーを実現するためには、ブッシュ現政権は多くの国との外交関係を見直さなければいけない。米国の外交政策は、「テロとの戦い」が基本になっている。だが今は(中国、ロシア、台湾、湾岸諸国などとの)外交関係を修復し、ウォール街から世界に飛び火した大規模な金融テロと戦うために、手を組むべきときだ。世界が恐れているのは「ウォール街発の金融テロ」の方だからだ。
あなたのご意見をコメントやトラックバックでお寄せください
この連載のバックナンバー
- 「おまえもか!」と非難したくなる世界の経済対策 (2009/04/07)
- 買いたくてウズウズしている米国民 ―― 株は底か? (2009/04/01)
- ダメな金融機関をつぶしてよい理由 (2009/03/25)
- 再編が進む百貨店とコンビニ業界 (2009/03/18)
- 日本の景気対策に欠けていること (2009/03/11)

